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ITビジネス ヒットエンドラン

− 第5回 −

「クチコミ」の活用はどこまで進むのか
〜Web2.0時代のマーケティング

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Web2.0時代のクチコミの未来を考える

 最近では、報酬を与えてクチコミをしてもらおうというビジネス、成果報酬型広告の亜流ともいえるビジネスが浮上してきている。こういったビジネスについては、満足していないかもしれない顧客に報酬を与えるといった倫理的な側面が気になると同時に、自発的に発生したものではない経済対価を求めたクチコミは、結果として質の悪いクチコミを蔓延させることになるのではないかという点が懸念される。

 また、経済的対価を求めることによって陥る罠を、経済学者であるウィリアムソン(O.E.Williamson)が、その著書(浅沼萬里・岩崎晃訳『市場と企業組織』日本評論社、1980 年)で、「自発的献血者に全面的に頼っているイギリスのシステムと、自発的献血と売血とを混合的に用いるアメリカのシステムを比較し、血液の商品化はシステムの動きに衰弱をもたらすような結果を招いている」という献血の研究事例を引用し、血液のような市場を創ることによって、利他的主義が減じてしまう可能性があると述べている。血液が商品化してしまうと、自発的献血者は「必ずしも自分の血液が不可欠ではないかもしれない」とか、「自分は気前がよいのだろうか、それともばかなのだろうか」といった疑問を抱くようになり、彼らの満足度を下げるという側面は無視できないとしている。

 これをクチコミにあてはめて考えるならば、ほとんどの場合、ブログ・SNS参加者は、サイト維持に費やす労力に見合う対価を得ていないにもかかわらず自発的に書き込みを続けている。それどころか、有料サイトでコストを払ってまでブログを開設し、自己のスタイルや主張を世に問うている生活者もいるわけだ。クチコミの商品化は、クチコミの選択肢を広げるプラスの側面と、自発的クチコミ発信者の意欲を下げるというマイナスの側面とが背中合わせだ。信頼性の低いクチコミ発信者がネットワーク社会の中で自然淘汰されていくような、経済交換によらない新しいクチコミモデルが必要ではなかろうか。これは筆者の杞憂かもしれないが。

 冒頭ではクチコミの定義を用いて、クチコミが成立するためには話し手と受け手との社会関係やその内容が商業目的ではないこと、商業的背景を薄めることなどが重要だと述べてきた。それは結局、「クチコミ情報の信憑性」に関わっている。すなわち、Web2.0以前のクチコミであれ、SNSやブログを用いたWeb2.0的なクチコミであれ、自分にとって重要でない人物や信頼できない人物からのクチコミは情報としての価値がゼロだということだ。

 このことは、顕示性のある商品選択を例にとって考えてみるとわかりやすい。顕示的消費(みせびらかしの消費)は、家族・学校・会社・サークルなど自分にとって重要と考えている集団、すなわち準拠集団からのクチコミが購入にあたって最も重要な決め手となってくる。なぜなら、準拠集団の評判が悪い商品を購入してしまっては、結果として何のみせびらかしにもならないからだ。顕示的消費の商品効用は、準拠集団の評価そのものであるといってもよい。このとき、準拠集団以外からのクチコミ情報は全く価値をもっていないことになる。

 顕示的消費に限らず、消費者の購買行動は多かれ少なかれこういった社会関係からの影響を受けやすい。そのため、ブログやSNSにかかわらず、サイト上に記載されている情報の書き手の人物像が明らかになる、あるいは具体的な人物像が想像でき、その人物が自分にとって重要なパーソン(人格)だと思わせることこそが、クチコミの伝播が起こるためには重要となる。それは、情報の送り手が匿名であるか実名であるか(あるいは実在するかどうか)といった次元の問題ではない。Web2.0的な技術やシステムの問題でもない。Web2.0メディアを活用したクチコミを、消費者が従来型のクチコミのように重要だと考えるようになるか否かは、人間がWeb2.0メディアを活用して今までよりも深い人間関係をつくれるかどうかにかかっている。

 企業信頼のバロメーターとも言えるクチコミは、企業価値やブランド価値の結果であり、決して原因ではない。たとえRSSやアフィリエイトといったWeb2.0的な技術やシステムを利用しようとも、一夜にしてよいクチコミをつくり伝播させることなど絶対に不可能である。長い時間を掛けて顧客との関係性を築いていくことが何よりも大切であり、これは、どの企業にも平等に与えられたチャンスだと考えるべきだ。Web2.0時代特有のクチコミは、ロングテール化しており、これまではクチコミにはならなかったような些細な事柄の影響力が大きくなってきている。これらの小さなクチコミに対してきめ細かく対応し、これを大きなクチコミとして育てることが大切だ。

(執筆担当:吉田(絵))

(2006年12月18日公開)


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