− 第5回 −
「クチコミ」の活用はどこまで進むのか
〜Web2.0時代のマーケティング
ロングテール化するクチコミ
最近再び「クチコミ」が注目されている。CGM(=Consumer Generated Media:生活者による情報発信)と呼ばれる、ブログやSNSなどの新しいメディアの登場で、消費者が従来よりも気軽に情報を受発信できるようになったからだ。消費者周りからの情報が、これまでとは比べものにならないほど増えている。ブログ検索ツールを活用すれば、ロングテール化したクチコミの検索がいとも簡単にでき、トラックバックやタグ共有などの仕掛けを用いれば、クチコミ間のつながりから新たな価値が生まれる「マッシュアップ」すら起こりそうである。こうしたいわゆる「Web2.0の時代」において、クチコミは新たな展開を見せつつある。
これまでにも、バイラルマーケティング、バズマーケティングなどとその呼称を変え、クチコミをマーケティングツールとしてビジネスに活用しようという流行が幾度となく訪れた。しかし、どれもこれも悪い意味で「売り手による買い手の操作」と受けとめられ、言葉そのものの新鮮さが失われるとともに消えていってしまった観がある。
本稿では、既存の研究成果を整理するなかで、そもそもクチコミとはどういう事象なのか、クチコミはどこへ向かっていくのかを考えてみたい。Web2.0時代のクチコミに企業がどのように対処すればよいのか、ひとつの指針を与えたい。
そもそも「クチコミ」とは何か
クチコミに関するマーケティング研究の歴史は長く、クチコミが消費者の購買行動に何らかの影響を与えることが解明されてきている。例えば、消費者は広告から得た情報よりもクチコミから得た情報を信頼する、不満を抱いた顧客は満足した顧客よりもたくさんの人にクチコミをする、顕示性のある商品選択は準拠集団(家族・学校・会社・サークルなど、個人の行動や判断に影響を及ぼす集団)からのクチコミに影響されやすい、といったことが指摘されている。
マーケティング研究で知られる慶應義塾大学の濱岡教授は、1994年に発表した論文(「クチコミの発生と影響のメカニズム」『消費者行動研究』, Vol.2,No.1)において、既存研究をレビューしたうえでクチコミを以下のように定義している。

【クチコミの定義】
これらの4つの定義のうち、ビジネスへの応用を考えるにあたって特に押さえておきたいポイントが二つある。
一つ目は、クチコミは本来、商業的な広告とは明確に区別されるべきものであるということだ。この定義にしたがえば、広告はクチコミではない。例えば、ブログで個人の主観と思われていた書き込みが、実は企業からの依頼に基づいた広告だったとわかった瞬間、そのブログが「炎上」してしまったという事例が後をたたない。したがって、消費者がクチコミ感覚でブログを閲覧していると考えられる場合には、ブログを広告メディアとして活用することは危険だ。消費者への裏切り行為と受け止められ企業の信用を大きく落とすことになりかねない。
そして二つ目は、クチコミは本来、見知らぬ他人同士で流れる「噂」とは区別されるべきものだということだ。つまり、クチコミの話し手と受け手は「知り合い」でなければならない。見知らぬ話し手からの情報は信頼に値しない「噂」として処理されてしまう。
例えば、インターネットの掲示板を利用したコミュニケーションは、一般的に話し手の匿名性が高いためクチコミメディアとしての要件を満たしていない。ただし、サイト管理者が仲人の役割を果たせば、「噂」を「クチコミ情報」に格上げすることは可能かもしれないが、見知らぬ者どうしを取り持つのだから相当の手腕が要求される。
一方、招待性や実名制をとるなどして、はじめから顔の見える相手との交流を目的としたSNSは、クチコミメディアとしての条件を満たしている。ただし、NEC総研が2006年に実施した調査報告書(『ブログ・SNS利用者の実像〜人々は何を求めているのか』)によれば、SNSにおいて「実際にあったことがないインターネット上だけでの知り合いどうしが相当数つながっている」ことがわかっており、その傾向はユーザーの年齢が高くなるほど顕著になっている。したがって、SNSも掲示板と同様に、必ずしもユーザー同士が社会的関係に規定されているとは限らない状況が、徐々に明らかになってきているのも事実だ。












