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認知科学者の視点

− 第11回 −

コンピュータに対する礼儀正しさ (2008年2月4日掲載)

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 あなたがあるとてもつまらないセミナーに参加したとしよう。そしてセミナー終了後に講師と偶然同じエレベータに乗り合わせ、「いかがでした、私の話は」と聞かれたとしよう。たいていの人ならば本心は隠して「いやあとても勉強になりました」と答えると思う。多くの人は、これを不正直というよりも、礼儀正しさの表れと考えるだろう。

 実はこうした礼儀正しさは意外な相手にも発揮される。スタンフォード大学のリーブスとナスは次のような実験を行った。コンピュータのデータベースへの入力を行うアルバイトとして被験者を集める。そしてこの作業が終わった後に、仕事の内容やコンピュータの性能などにかかわるアンケートを実施する。例えば「この仕事はどのくらい楽しかったですか」、「コンピュータの反応は十分にスピーディーでしたか」などである。ただし被験者の半数は作業終了後にそのコンピュータにアンケート項目が表示され、そこに直接記入する。残りの半数は別室に行き、印字されたアンケート用紙に記入する。

 アンケートの中身は2つとも同じなのだが、その結果には大きな差が生まれる。コンピュータに直接答えたグループでは、ほとんどすべての項目で印字されたアンケート用紙に答えたグループよりも評価が高くなる。どうしてこのようなことが起きるかというと、最初の「セミナー」の話と同じで、「知らない人には礼儀正しく」というルールが働いてしまうからなのである。つまり自分が作業をしたコンピュータに回答した人たちは、そのコンピュータに面と向かって「(あなたの)性能は悪い」、「仕事はつまらない」というのは礼儀に外れたことだと判断してしまうのである。したがって、自分が作業をした当のコンピュータではない、別のコンピュータでアンケートを実施すると、その結果は紙に記入したグループと変わらなくなる。

 この結果がさらにおもしろいのは、コンピュータに対する礼儀正しさは無意識のうちに出てしまうということである。コンピュータに回答した被験者たちに「あなたの評価は妙に高いけど、それはこのコンピュータに遠慮したからですか」などと聞くと、多くの被験者は「なんでコンピュータに遠慮する必要がある」と憤慨する。またこの傾向はコンピュータに関する経験には左右されないというのもおもしろい。この実験に参加した人の中にはかなりコンピュータに詳しい人たちも含まれていたのだが、彼らの反応が他の被験者たちと違っていたわけではなかった。

 このごろ人間社会では昔の礼儀正しさが失われてきていると嘆く人が多いが、それはコンピュータのような遠慮の必要のないものに礼儀正しくなった反動なのかもしれない。

挿絵/山本 正明


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