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認知科学者の視点

− 第9回 −

進化が作る道徳心 (2007年9月10日掲載)

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 動物関連の番組は好きなのでよく見る。いつ見ても動物たちのあまりに見事な行動に愕然とさせられる。先日もNHKで、羽が小さいために飛ぶのが苦手な(そして歩くのも苦手な)鳥のことが取り上げられていた。なんでこんな生き物が生き残るのだろうかと不思議な気持ちになるのだが、実は羽が小さいおかげで水の中をものすごいスピードで移動することができ、それで魚を捕って食べているという。

 こうしたことはすべて進化のおかげである。進化というのはとても簡単な前提からなっている。(1)種の中に遺伝的な多様性がある、(2)その種が生き残るための食糧などの資源は種の個体全体が必要とする量よりも少ない、というものである。するとその資源の獲得に有利な遺伝的な形質を持った個体はより生き残る確率が高くなり、そしてパートナーをより見つけやすくなり、結果としてその遺伝的形質を次世代に伝えることができる。こういうことが重なると、結果としてその形質を持った個体がどんどん増えていくというわけである。

 このように進化というはとても簡単で否定しがたいロジックから成り立っているのだが、進化論が発表された直後から問題となったことに利他行動というものがある。利他行動とは、他の個体のために自分を犠牲にするという行動である。こうした行動は人間を含めた社会性動物にはよく見られることなのだが、進化論的に見るとどう考えても不合理である。自分は利他行動を一切行わず、人から利益だけを受け取る個体、つまりただ乗りする個体がいると、利他行動を行う個体は生存上不利な状態に陥り、その遺伝子を次世代に伝えることが難しくなるからだ。また、ただ乗り個体がどんどん増えると、それら自身の生存も脅かされることになる。

 利他的な行動が合理化されるためにはどんな条件が必要なのだろうか。この分野の研究者たちによると、(1)個体間のやりとりが1回限りではないこと、(2)ただ乗り個体には罰が与えられること、この2つの条件が存在する場合には、利他行動は不合理にはならないのだそうだ。

 こうしたことから、人間のように利他行動を頻繁に行う種では、誰がただ乗りしているのかに敏感になるような知性が進化する、と考えるのが進化心理学者たちである。確かに私たちは「ずるい」ということにとても敏感なように思える。小さいこどもたちもよく「ずるーーい」と抗議する。また不正、抜け駆け、裏切り、こうしたことが報道されると、私たち大人も強い憤りを覚える。こうした道徳心は実は進化のおかげなのかもしれない。

 

挿絵/山本 正明


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