− 第17回 −
地域社会を活気づけ、勇気づけるためにITはどのように役立っているか
〜地域おこしにおけるユビキタス化〜
我が国における地方自治体の情報化は1980年代から取り組まれており、既に20数年の歴史を持っている。また、1990年代半ばからは、インターネットを活用した様々な行政サービスも提供されてきた。とはいえ地域のこうした情報化は、どちらかといえばインフラ整備を中心とした仕掛けづくりに重点が置かれ、その情報基盤をどのように使いこなしていくかという利用術の開発は、後回しにされてきた感がある。今回はそんなソフト面から、ITが地域おこしにどのように役立っているのかを、東北地方にある2つの町からレポートする。
産地の大ピンチをチャンスに変える「りんごまるかじり条例」
板柳中央病院
経理係長
佐藤文俊氏
青森県・津軽平野のほぼ中央に位置する板柳町は、総面積41.8平方キロメートル、人口約1万6000人の小さな町である。ところが、この町で生産されるりんごは年間およそ2万3000トンに上り(国内生産量の約40分の1)、反(たん)当たりの収穫量では全国第1位を誇っている。文字通り、ここは「りんごの町」なのである。
栽培開始は今から130年前の明治9年。それから生産者同士が栽培技術を競い合うことで、現在の地位を築いてきた。例えば、枝をどのように刈り込むかは、収穫量とともにおいしさの向上にも深いかかわりを持っているが、同町には「カリスマ剪定師」と呼ばれる生産者がいて、剪定のシーズンには県内外から仕事の依頼があるという。
一方、町としても板柳産りんごのブランドづくりを推進するなど、りんごを中核とした町の活性化策に積極的に取り組んできた。ところが、さあこれからという時に、最悪の事態が発生してしまった。
2002年8月、津軽一円に広がったりんご無登録農薬問題で、同町の十数軒の生産者も使用していたことが判明した。これは、あっという間に全国的な問題に発展し、同町に構え全国で唯一りんごを専門に取り扱う津軽りんご市場の流通も、一時的にではあるが停止した。この時の状況について、同町の元総務課電子計算係長で、現在は板柳中央病院経理係長の佐藤文俊氏はこのように振り返る。
「町では、正確なデータ収集とその開示こそが消費者の信頼を取り戻す最善の道だと考え、町内の全農園でサンプリング調査を行いました。いいものとダメなものをはっきり選別し、疑わしきはすべて焼却処分するという姿勢で臨んだのです。最終的には、その年の11月、大手百貨店などが板柳町のこのようなやり方に支持を表明して、問題は収束に向かいました。
このときの損失は総額で1億円を軽く超えましたが、そんな直接的なロスとともに、りんごのイメージダウンという損失も大でした。そこで、この反省を踏まえ、りんごという食べ物をつくっている生産者であることを再認識し、安心・安全を消費者に届ける決意を広く表明しようということになったのです」
そこからの対応は素早いものだった。「りんごの生産における安全性の確保と生産情報の管理によるりんごの普及促進を図る条例」を策定。12月13日には公布した。安心してまるごとがぶりとやってほしい、という気持ちから生まれたこの条例。通称「りんごまるかじり条例」と呼ばれている。
しかし、条例は出来上がったものの、安全性を確保して、生産者情報をどのように管理していくかということに関しては、公布時点ではほとんど何も決まっていなかった。佐藤氏は偶然にも、事件の1年前くらいからトレーサビリティシステムに関するリサーチを行っており、この条例の実行手段としては、トレーサビリティのシステムを導入するしかないと考えた。
「その当時のトレーサビリティシステムは、ディープな消費者とこだわりの生産者の間だけで存在するもので、一般的ではありませんでした。また、一つの町全体でこのシステムに取り組んだ事例など、それまで全くありません。
そんな時、総務省の『地域情報化モデル事業交付金(eまちづくり事業)』が事業の募集をしていることを知り、りんごトレーサビリティシステムの構築というテーマでこれに応募してみたのです。そうしたら、これがすんなりパス。資金的な裏づけもできて、2003年初頭から、前例のない全町的なトレーサビリティシステムの構築がスタートしました」











