− 第16回 −
ITを駆使することによって、より安心・安全で楽しいドライブを実現
〜自動車を取り巻くユビキタス化は、今どのくらい進んでいるか〜
もともと自動車はメカの集合体で、制御も機械的制御が中心であった。そこにエレクトロニクス技術が導入されたのが、1970年代である。排ガスの浄化対策、オイルショックによる燃費改善の要請などをきっかけとして、まずはエンジン制御の分野から本格的なカーエレクトロニクスはスタートした。それから30年余り。今日では、もうITを抜きにして自動車は語れないところまできている。今回は、トヨタ自動車とKDDIの2社に自動車を取り巻くユビキタス化の現状を取材した。
プリクラッシュセーフティシステムを世界で初めて商品化
まずは、自動車の安心・安全という面から見ていくことにしよう。
この分野では各自動車メーカーとも、「衝突安全」にフォーカスした技術開発がファーストステップとなった。事故が起こったとき、その被害をいかに軽減するかというコンセプトの下に、衝突のエネルギーを効果的に吸収するボディをはじめ、シートベルトやエアバッグなども生まれてきた。
そして、エレクトロニクス技術の目覚しい進展は、より高度な車両制御も可能にしていった。こうして自動車の安全に関する技術は、車両の安全性を確保し、ドライバーの事故回避のための支援を行う「予防安全」へと進化していくのである。
トヨタ自動車株式会社
車両技術本部 第1車両技術部 車両安全
主査 葛巻清吾氏
トヨタ自動車で安全技術の開発を担当する、車両技術本部第1車両技術部車両安全主査の葛巻清吾氏は自動車とITの関連について次のように語る。
「自動車は、エンジンや駆動系、シャシー系などの機構がベースであることに間違いありませんが、年を追うごとにエレクトロニクス技術の比重が高まってきています。制御システムを専門に開発する部署を新設するなどの動きが出てきています。カーエレクトロニクスと呼ばれるものでは、エンジン制御やABS(Anti-lock Brake System)などの車両運動制御がよく知られていますが、衝突を事前に検知し、被害を軽減することを目的に開発されたのがプリクラッシュセーフティシステムで、2003年に『ハリアー』に実装。これはトヨタが世界に先駆けて商品化した安全技術でした」
このプリクラッシュセーフティシステムは、年ごとに進化を重ねているが、その流れを追ってみよう。
2003年の最初のバージョンは、前方ミリ波レーダーで進路上の車両や障害物などを検知。衝突が不可避だと判断したときは、ブレーキの制動力を高めたり、シートベルトを巻き取ったりすることで、衝突による被害を最少化しようというものであった。翌04年には前方カメラも搭載し、白線検知と組み合わせることで警報タイミングを前出しした。
そして06年。ステアリングコラムにドライバーモニターカメラを導入する。これは、目と鼻の位置によって顔の中心線を決め、ドライバーの顔の向きがこの中心線から外れていれば脇見をしていると判断。その状態で衝突の危険性がある場合は、早い時期から警報を鳴らすものである。
同じく06年には、前方ステレオカメラと後方ミリ波レーダーも追加した。ミリ波レーダーでは、弱い反射しか返ってこない人間は検知しづらい。それをあえてやろうとすると、道に落ちている空き缶などにも反応してしまう。そこで近赤外線のステレオカメラを導入。画像による判定とミリ波レーダーとの組み合わせにより歩行者の検知を可能にした。これで、ドライバーに歩行者の存在を知らせるとともに緊急回避操作への支援システムを追加した。
一方、後方を監視するミリ波レーダーも世界初であった。このレーダーによって、後方車両の接近を検知し、追突の危険性があると判断した場合は、ハザードランプを点滅させて後方車両に注意を喚起する。それでも後方車両が接近してきた場合には、ヘッドレストを適切な位置まで移動させて、追突されたときのむち打ち傷害の軽減を図るようになっている。
「これらはいずれも最先端の技術で、今はハイエンドの車種に搭載していますが、これからは幅広い車種に水平展開していくつもりです。また、エレクトロニクス技術のイノベーションと歩調を合わせる形で、周辺監視の全方位化やドライバーの状態検知の高性能化などにも取り組んでいきたいと思っています。プリクラッシュセーフティシステムを使っているお客様からは、ぶつかりそうになってシートベルトが巻き取られ、危険な状況をハダで感じられて事故にならずに済んだ、といった声が寄せられています」と、葛巻氏はこの技術に自信をのぞかせる。
「プリクラッシュセーフティシステム」構成
ミリ波レーダーとステレオカメラによる「歩行者」の検知イメージ











