− 第5回 −
ユビキタス社会は「キャッシュレス」がトレンドに
携帯電話の活用で損害保険ビジネスを大変革
次に取り上げるのは、損害保険業界だ。2001年4月、大東京火災海上保険と千代田火災海上保険が合併して誕生したあいおい損害保険は、ITを活用した営業革新といった新たな試みに果敢にチャレンジしている。
損害保険会社のビジネスを語るうえで忘れてならないのは、代理店の存在。従ってITを活用した仕組みを構築するに当たっても、契約者へのサービス向上と、代理店の営業支援という2つの条件を満たす必要がある。そこで、あいおい損害保険が代理店の営業支援という観点から作り上げたのが、「けいたいPOS」というシステムである。2002年6月から実証実験を始め、2004年10月全国展開の運びとなった。
これまでの損害保険の販売は、代理店の担当者が契約者の署名・捺印をもらい、保険料を領収して、事務所にそれらを持ち帰り、契約内容のエントリーをはじめとした事務処理を行っていた。この一連の作業を、携帯電話を活用して訪問先ですべて処理してしまおうというのが、「けいたいPOS」なのだ。
あいおい損害保険
営業推進部事業企画室
課長 西辻徹氏
営業推進部事業企画室の西辻徹課長は、その開発経緯をこう振り返る。
「携帯電話は代理店のほぼ全員が所有しており、これでハードの問題はクリアできます。従って、われわれはソフトだけを提供すればいいことになり、しかもインターネット経由でそれをやれば、配布の手間もいらないわけです。そこで、どのキャリアのどの携帯電話でも使えるソフトをいかに作るかが、開発の最大のポイントとなりました」
「けいたいPOS」の仕組みを簡単に説明しよう。例えば自動車保険であれば、自分の担当する顧客の満期一覧が画面に表示される。その中から満期が近い顧客を選択すると、おすすめの4パターンが表示され、そのうち一つを選択して変更の必要な部分だけを入力すると、見積が表示されるようになっている。
これを持って客先に出向き、契約内容を画面に表示。顧客に画面上でそれを確認してもらって、それでOKであれば契約のすべてが完了となる。この間、書類などは一切取り交わさないので、ペーパーレスが実現するわけだ。保険料もその場で受領するのではなく、口座振替やクレジットカード対応としているため、キャッシュレスとなる。
「本格的に稼働してまだ間がないため、利用率は1割ちょっとという感じですが、契約後の事務処理がほとんど削減できますから、2007年度までに最大8億円の経費節減効果を出していきたいと考えています」
さらに、あいおい損害保険では、顧客向けとして「けいたいIOI」、社員向けとして「けいたいLAN」を次々に開発して、モバイル3シリーズの基本ラインアップを作っていった。「けいたいIOI」は、顧客の携帯電話に、契約内容、事故時のアドバイス、緊急連絡の方法などの情報を送り、万一の場合にも落ち着いて事態に対処できるようにするもの。また「けいたいLAN」は、社員が自分のモバイル端末から社内LANのグループウエアに随時アクセスして、情報をリアルタイムに活用できるようにする仕組みである。
「携帯電話をこれだけフルに活用した仕組みを持っているのは、損害保険業界でも当社だけだと思います。文字どおりユビキタス時代を先取りしているのではないかと自負するものですが、これからはモバイル3シリーズのブラッシュアップを図るとともに、FeliCa搭載の携帯電話も取り入れた新しいサービスなども考えていきたいと思っています」
西辻氏は、自信をのぞかせながら次の一手をこのように語った。
「キャッシュ」「クレジット」「電子マネー」の機能を併せ持つICカードが登場
さて、最後に話を銀行業界に戻してみよう。前述の通り、銀行でのICカードの利用はATMなどのハードが壁になってほとんど進んでこなかった。しかし、キャッシュカードをめぐるトラブルが頻発するようになって、このところ銀行業界でもICカードの導入を急ぐ動きが目立ってきている。
東京三菱銀行はカードとATMの整備を同時に進めて、2005年秋にキャッシュカード、クレジットカード、電子マネーなどの機能をもつカードを発行。ここでセキュリティ対策として、手のひらの静脈の形態で本人確認をする認証システムを取り入れることになった。
(参考:ユビキタスビジネストレンド 第3回「安全」「安心」がもたらす新ビジネス)
一方、三井住友銀行やみずほ銀行などでも、同じくICカードを発行するとともに、生体認証として指静脈認証システムを導入する計画が進行している。これらによって、キャッシュカード犯罪が大幅に減ることが期待されている。
ITのビッグユーザーである銀行が、ユーザーの利便性向上と安全性の確保に向けて、いよいよ本格的に動き出した。これを契機に金融業界全体へキャッシュレス、ICカード化の動きが波及していくことだろう。
(2005年5月16日公開)









