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ユビキタスビジネストレンド

− 第6回 −

情報と人をつなぐインターフェース
〜ディスプレイの進化がコミュニケーションを変える〜

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 新聞や雑誌はもちろん、パンフレットやポスター、製品のマニュアル、ビジネスで使うさまざまな書類……。ビジネスでもプライベートでも、情報の多くは紙をベースにやり取りされている。しかしここ数年、ディスプレイが高性能化、低価格化したことにより、「紙からディスプレイへの移行」が本格化し始めている。店頭のポスターが、街中の案内図が、レストランのメニューが、工場の作業マニュアルが、紙からディスプレイへと移行することで、紙では不可能だった双方向性やリアルタイム性、検索性などが付加され、単なる情報の表示を超えたリッチなコミュニケーションも可能となってきている。また、これらの大型ディスプレイだけでなく、ハンズフリーで使えるヘッドマウントディスプレイや、軽くフレキシブルな電子ペーパーなどの携帯可能な新しいディスプレイ分野にも注目は高まっている。これらの先にあるのは、完全なペーパーレスや、ウェアラブルなコンピュータによる真のユビキタスな社会の実現だ。経済産業省では、世界のディスプレイ市場は2000年の5.1兆円から2010年には12兆円へと拡大するとレポートしており、今後もさまざまなシーンでのディスプレイの活用が進むことが予想される。今回は、単なる情報の表示だけでなく、人間と情報をつなぐインターフェースとして進化しはじめたディスプレイの現状と、今後のビジネスの可能性を探る。



【第一章】 街中に溢れる情報端末

街中からポスターが消える?

 PDPやLCDといった薄型、平面のディスプレイを情報端末として店頭に設置する企業が、ここ数年、急速に増えている。例えば、三井住友銀行では、個人取引に特化したモデル店舗である三宮支店において、店内の各所に合計13台のPDPを設置。同行のコマーシャル映像はもちろん、金融マーケットやニュースなどのリアルタイム情報を流し、顧客へのプロモーションやサービス向上をはかっている。さらに新生銀行では、2001年の店鋪改装を機に店頭への導入をスタート。すでに国内の全での店舗において、店内の壁に貼られていた各種のポスターを廃止し、PDPモニターによる表示に切り替えている。

 金融機関だけではない。例えば六本木ヒルズでは、合計すれば300台を超える映像端末が設置されており、館内の案内をはじめ、イベントや店舗情報が、いたるところで配信されている。他にも、ホテルや交通機関、医療機関や自治体などにおいて、利用者に対する情報提供の手段として、ディスプレイを導入する事例が増えている。これらのいわば“動くポスター”ともいえる平面ディスプレイは、動画や音声などを組み合わせることで、ポスター以上にリッチな情報を提供できることに加え、必要なときに必要な情報を、すばやく提供できることも大きな利点だ。六本木ヒルズの場合、各ディスプレイは100Mbpsの光通信網で接続され、配信されるコンテンツは配信センターのサーバーで集中管理しており、スケジュールや内容の変更を容易に行えるのはもちろん、緊急時などに特別な情報を割り込ませることが可能となっている。

 これらの動くポスターが普及した最大の背景には、ディスプレイによる情報表示システムの導入コストやランニングコストが、ポスターや店頭ポップなどの製作や印刷、張り替えなどのコストと、更新の頻度や企業の規模によっては、大きく変わらないレベルにまで低下したことがあげられる。一方で、ディスプレイによる情報表示システムは、動画や音声などを組み合わせることで、紙を使った情報よりも、大きく訴求力を高めることができる。また、例えば時間帯や天候など、さまざまな要素で変化する消費者の動向に応じて、タイムリーな情報の提供を行うことも可能なのだ。最近では、動くポスターのような一方向的な情報発信を超えて、双方向で情報を送受信できるシステムを活用する事例も増えている。その代表的なものが、ディスプレイを使ったレストランなどのオーダーシステムだ。

タッチ式ディスプレイ導入のねらい

 「さまざまなサービスや付加価値をつけられるという将来性を評価した」と、ディスプレイによるオーダーシステム「e-menu」導入の背景を、焼肉屋さかい営業企画部長の上山氏は語る。同社は、従来高級なメニューのひとつであった焼肉を、気軽に楽しめる価格設定で提供し、「ファミリーで楽しめる焼肉店」を全国に展開。わずか10年ほどの間に、210店舗を構えるまでに成長した外食チェーン。『うまい・やすい・楽しい』を基本コンセプトに掲げており、「e -menu」は、この「楽しい」の部分での活用を考えての導入だったという。「今の時代、『うまい・安い』はある意味当然のことですから、当社では『楽しい』という要素をいかに高めるかに力を入れているのです」

「e-menu」のシステム構成
各客席にある端末で注文すると、厨房にあるキッチ
ンプリンターへとオーダーが通る。既存のハンディ
ターミナルやPOSレジとも連動している。
(アスカT3HPより)

 「e-menu」は、アスカT3が開発したテーブル設置型のタッチパネルによるオーダーシステム。料理は「焼肉」「海鮮」「キムチ&サラダ」「デザート」などのカテゴリーごとに分類されており、これをタッチしながら選択していくと、画面横に注文した料理が一覧表示されていく。一通り選び終わったところで「注文」ボタンを押すと、確認画面が表示され、「OK」を押すと、そのまま厨房に注文が入る仕組みだ。各料理はカラー写真とともに表示され、詳細な説明も見ることができるようになっている。ほかにも、ゲームや占いといったコンテンツもあり、料理を待つ間などに楽しめるようになっている。

メニューのカテゴリーを進んでいくと、それぞれの料理が写真と
ともに表示されている。料理を選択すると、画面横に一覧表示され
る。料理を選び終わったら「以上の内容で注文する」を押し、確認
画面でOKボタンを押すとオーダーが送信される。

 同社では「e-menu」を、2002年にまず神奈川県の久里浜店で試験的に導入。アルバイトのシフトを調整し、約3ポイントの売上高人件費比率の改善に成功し、「e-menu」導入および運営のコストを、人件費で吸収することができたという。とはいえ、導入の目的はあくまで利用客の「楽しさ」のアップ。つまり、サービスの向上が目的だ。このため、「さかい」では必要以上にスタッフ数を削ることはせず、注文業務が軽減された分を焼き網の交換などのサービスに向けているという。

トップページには「店長のいち押し」「季節のメ
ニュー」「焼肉」「海鮮」などのカテゴリーに分けられ
たメニューのほか、同社の食材へのこだわりや安全
性を説明した「安全・安心宣言」、さまざまなゲーム
が楽しめる「あそぶ」、これまでに注文した料理と合
計金額が一覧表示される「現在のお会計」などに分
かれている。

 一方、顧客にとってのメリットとしては、思い立ったときに注文ができる点にある。「さかい」では、テーブルに無線のベルを置いていつでも従業員を呼べるようにしているが、「押してから従業員がサービスに来るまでに平均50秒はかかっていた」という。これが「e-menu」なら、直接厨房にオーダーすることが可能で、待ち時間はゼロになるのだ。


新たなコミュニケーションツールへ

 当初は、注文機会を逃さないということで、客単価のアップも予想されたが、実際には客単価に大きな増減はないという。「焼肉店の場合は、ある程度まとめて注文をするお客さまが多いのですが、『e-menu』の場合必要な分だけ細かく注文することができる。このため、頼み過ぎということがなくなったのではないか」とこの点を上山氏は分析する。また、「e-menu」では利用客が注文の明細や合計金額を表示・確認できるようになっていて、これも「頼み過ぎ」のセーブにつながっているようだ。これは、一見店側にとって不利益にも見えるが、ファミリー層を主要ターゲットにしている「さかい」にとって、「お客さまの安心感につながり、長い目で見れば利益につながる」のだという。

焼肉屋さかい 営業本部
上山真弘営業企画部長

 同社では、久里浜店での導入以降、ほぼ毎年1店鋪のペースで導入を拡大しており、別業態の「にっぱちさかい」を含め、現在3店鋪ですでに活用。この夏には、さらにもう1店鋪での採用が決まっている。現状では印刷物のメニューブックと同様の写真を載せているだけだが、動画などを使うことで、訴求力を高めたメニューの構成を検討しているという。さらに将来的には、「e-menu」を顧客動向の管理などのマーケティングツールとして活用することも検討しており「画面上での簡単なアンケートなどによりお客さまのニーズを汲み上げるなど、お客さまとお店を結ぶコミュニケーションツールとしての可能性にも期待している」

 このようなオーダーシステムは、「さかい」のほかにも、ロードサイドのファミリーレストランや駅周辺の大型の居酒屋店などを中心に導入が進んでいる。回転寿司チェーンの「くら寿司」では、画面上を泳ぐ魚にタッチすることで、寿司の注文ができるといったエンターテイメント性も持たせるなどの工夫で、小さな子ども連れのファミリー層に人気を呼んでいる。一方で、客単価が約1万円程度と高級な外食店でも導入されたケースがある。東京・銀座の「安曇庭(あずみてい)」だ。同店は、流行の個室スタイルの高級居酒屋店。テーブル設置型ではなく、無線LANを使用したポータブルタイプのオーダー端末を利用しており、顧客が最初のオーダー時に紙のメニューかディスプレイかを選べるようにすることで、「機械的で味気ない」といった反応もないという。これらの店舗では、大幅な人件費の削減や、注文機会のロスを防ぐことによる客単価のアップなど、確実に利益が上がっているという。

 今後、飲食店では、少子高齢化の影響もあり、主要な労働力である学生やフリーターなどのアルバイトの確保が難しくなってくるといわれている。実際、ここ数年で時給が上昇するといった傾向もあるといい、「将来的には、さらに人材の確保が困難になることが予想される。5年後、10年後を見越したときに、人手不足の解消策のひとつとして『e-menu』に期待している」(上山氏)。

 ここまでに紹介したようなディスプレイ以外にも、店舗のウィンドウやガラススクリーンなどを使い指先をポインティングデバイスとして操作できる両面表示タイプのディスプレイや、透明の球体の中に映像を映し、占い師のように球体を手で包み込むようにして操作する水晶玉ディスプレイなど、さまざまな形態のディスプレイが登場している。これらの新形態のディスプレイは、工夫次第でユニークなプレゼンテーションのツールとして利用でき、サービス業やエンターテイメント業などで、大きな普及の可能性を秘めているといえるだろう。


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