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2008/07/29

iPS細胞の夢とさらにその先の夢

まあ、iPS の現実に関してはこれくらいにして、オレらしく少しSF的な可能性について考えてみたい。

iPS細胞は多能性を持った細胞だ。つまり体を構成するいかなる細胞も作ることができる。

それはどういうことかというと、一人の大人の皮膚細胞から、精子も卵子も作ることができるって事なんだよね。男性の皮膚細胞から、精子でも卵子でも作れるし、女性の皮膚細胞から精子でも卵子でも作れるわけ。

それって、性染色体は一体どうなっとるんじゃいと思うかもしれないけど、女性皮膚細胞由来の精子の性染色体はXXだし、男性の皮膚細胞由来の卵子の性染色体はXYだ。つまり、性染色体の違いだけでは、精子になるか卵子になるかは決まらない。

すると、原理的には自分の皮膚から取った細胞で、精子と卵子を作り、それを受精させて、借り腹で子供を作ることができる。自分の遺伝子だけで自分の子供が作れるわけね。

この場合、性染色体がYYの組み合わせになった受精卵は、正常発生できないか先天異常か死産になるだろうけど、それ以外は正常な子供として産まれてくる。

そしてこれは、クローンとは違うんだよね。

本人の細胞由来の精子や卵子は、減数分裂で2本一組だった染色体の片方しか持っていない。つまり、本人の父方の染色体か、母方の染色体がそこにあるわけだ。しかも、厳密に言えば、父方の染色体も、母方の染色体も、同じコードの場所がモザイク状に相同組み換えがおきているので、その人の母親のものとも父親の物とも違った染色体になっている。

それを受精させて子供にした場合、それは本人とは、遺伝的な構成がかなり違ってくる。すくなくとも、兄弟姉妹と同程度には、遺伝的に違う子供になる。遺伝病の発症確率は近親婚よりやや高まるけど、まあそれはいいか。

でも、そんなのちょっと気持ち悪いし、そこまでして自分に似た遺伝子を持った子供作るのは倫理的にダメなんでないのと思った人も多いと思う。

でも、これって、同性愛カップルが、自分たち二人の遺伝的な要素を受け継いだ子供を持ちたいと思ったとき、それを可能にする技術でもあるんだよね。そうなると、それはどうしたらいいかとか。

また、一人の大人の皮膚細胞から、精子も卵子も作ることができるとすれば、これは、精子や卵子が作れない人にも、自分の遺伝子を受け継いだ子供を持つ希望を与える、究極の不妊治療になるわけね。

もっとも、これは理論的な可能性で、技術としては、実現にいくつか壁がある。

iPS 細胞から生殖細胞ができることは、これまでキメラマウスで確かめられている。なんでキメラマウスを使うかというと、ES細胞やiPS 細胞にある万能性という言葉の意味は、全身のいかなる細胞にも分化できるけど、胎盤の細胞にはなれない性質ということだから。

(実はこのへん、訳語に混乱がある。受精卵だけが持つ胎盤にもなれる性質はtotipotentで全能性。体性幹細胞など特定の系列の細胞にしかなれない性質はmultipotentで多能性。で、iPS のPであるpluripotentは万能性のはずなんだけど、山中さんは多能性と呼んでいる)

iPS 細胞は胎盤になれないので、それだけでは子供にならないけど、別系統のマウスの初期胚とまぜてやると、両者の細胞がモザイク状に混ざったキメラが産まれる。で、そのキメラマウスをたくさん調べると、中には精巣や卵巣の細胞が、iPS 細胞起源のものもいるわけね。

面白いのは、ジャームライン・トランスミッションといって、体細胞の全てがiPS 細胞起源のマウスも現れること。実はiPS 細胞はES細胞より、ジャームライン・トランスミッションが起こり易いみたい。

あと、テトラプロイドレスキューといって、染色体を人工的に4倍体にした胚は、胎盤にしかなれない性質があるので、これとiPS 細胞を混ぜてやると、確実にジャームライン・トランスミッションの子供を作ることができる。つまりこれはiPS 細胞由来のクローンってわけね。

ただ、これは実験動物だからできることで、ヒトの4媒体胚を作ったり、ヒトのキメラを作って、iPS 細胞由来の生殖細胞を作るのは、ちょっと憚られるよね。

まあ、いつか、試験管内でiPS 細胞を培養しながら、条件をコントロールして、精子や卵子にする技術もできるとは思うけど、今のところは、それはどうしたらできるのか、皆目見当が付いていないに等しい。だから、誰でも単為生殖ができる時代は、まだしばらくはお預けだ。

ただ、これが可能になると、もっととんでもないことがおきる。それはデザイナー・チャイルドの実現を阻んでいた外堀が、埋められちゃうってことだ。

デザイナーチャイルドとは、親が子供に、好みの遺伝子改変を施すものだ。
これについての批判は、昔「育種と優生学(上)」「育種と優生学(下)」で書いたので、良ければ読んでちょ。

でも、特定の遺伝子を好みのものに取り替えるには、膨大な試行錯誤が必要で、ヒトのES細胞では事実上不可能だった。

でも、iPS 細胞なら、遺伝子の取り替え(相同組み換え)の試行錯誤はいくらでもできるので、その壁は取り払われる。

ただ、どの遺伝子をどう取り替えたら、どんな性質になるかということの大半は、実験してみないとわからない。つまり、実験動物ならできるけど、ヒトでそれを試すのはこれまたちょっとやりにくい。

ある遺伝子を変えたとき、それでどんな変化が起きるかは、大人になるまで育ててみないとわからない。大人になってから、狙いと違いましたではすまないもんね。

でも、遺伝難病の遺伝子を削除するみたいなことから、それが始まっていく可能性は否定できないのよねん。

そして、それが進んでいくと、人類という種が消え失せてしまう事だってあり得るのねん。まあ、人類が人類でないものに変わったとしても、そのときはそのときだけど。

最終更新時間 2008年07月29日 07:45

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