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2008/06/29

宇宙服とパワードスーツ

 カシオからデジタルカメラのEXILIM PRO EX-F1 ってのが出ていて、これが微速度撮影(高速で動くものをスローモーションで捉える)や秒間60コマの高速撮影、あと、ゆっくり動くものでも擬似的に流し撮り(中央の被写体はくっきりだけど、まわりの景色がぶれてスピード感がある写真)が撮れたりして、なかなか面白そう。ほしい。

 それはともかく、スローで撮ると宇宙空間になるらしいよ。( ・∀・ )

 このデイリーポータルZの記事は、なかなか着想が素晴らしいと思うけど、でもどうしてスローな動きが、宇宙をイメージさせるんだろう。

 その理由の一つは、無重力の場所で、ふわっと漂っていると、それだけで何となくゆっくり動いているように見えるのと、漂っていながら何の支えもないところで手足を素早く動かすと、角運動量の保存則とかの各種保存則がもろに効いて、体があらぬ方向に回転してしまうからじゃないかと思う。

 あと、これまでの船外活動用の宇宙服は自由に手足を動かせるわけではなくて、色々と関節の動きに制限があるので、それが地球上の動き方に比べると、ずいぶん違った感じに見えるって事もあるんじゃないかな。

 一口に宇宙服といっても、用途にあわせていくつか種類がある。。

 たとえばスペース・シャトルの打ち上げの時など、飛行士はオレンジ色の宇宙服を着ているはずだ。

 今年の2月、スペースシャトルで土井隆雄さんが宇宙に行くというニュースが流れていたんだけど、そのほぼ同じ時期に、ロス疑惑の三浦和義さんがサイパンで殺人容疑で逮捕された。で、このとき三浦さんはオレンジ色の服を着ていたので、友人の一人が、はあ~みうらさん宇宙へ行くんだ~ってボケてたよ。

 このオレンジ色の服は、そのまんま、アメリカの「オレンジスーツ」という名前の宇宙服で、打ち上げと帰還の時に着るものだ。同等のものとして、ロシアでは「ソコール」という名前の宇宙服がある。

 このタイプは、軽量で動きやすく、海に落ちても大丈夫といった、事故が起きたときの安全性を配慮して作られているんだけど、真空の宇宙での作業に使えるような機能は持っていない。

 一方、宇宙での船外活動用の宇宙服としては、アメリカは「船外活動ユニット」(EMU:Extravehicular Mobility Unit)があり、ロシアには「オーラン」がある。

 オーランはヘルメットの上に天窓があって、全体が一体化した、イメージとしては着ぐるみみたいな感じの宇宙服だ。

 背中のハッチをパコッと開けて潜り込み、服の前から出ている紐を引いてハッチを閉めるだけなので、一人で15分で着ることができる。また、内部の与圧は0.4気圧で、真空中へ出る準備はEMUより早くすむ。

 ただ、重さは130キロで動きの自由度は少なく(股関節とかはあまり曲がらないとか)、ふくらみも大きくて、動きやすくはないみたい。

 一方EMUは、生命維持装置、宇宙服、補助装置の3ユニットで構成されていて、全体で120キロくらいある。

 このうち生命維持装置は、空気供給や二酸化炭素の吸収、気圧や温度のコントロールを行い、電力供給や通信機能も受け持つ装備で、背中に背負う形で取り付けられる。

 また、補助装置は、飲料水用のパックや、ライトやビデオカメラ、飛行士を宇宙船に繋ぎ止めるひも(テザー)などのオプションパーツ類のことをいう。さらに、これに加えて、宇宙遊泳をするときには、ガスを噴射して移動するための有人機動ユニット(MMU:Manned Maneuvering Unit)が用いられる。

メインの宇宙服は、上半身、下半身、手袋、ヘルメット、冷却下着などのパーツでできた気密服だ。しかもこれは、3層の冷却下着、2層の気密層、9層の宇宙環境保護層の合計14層の重ね着方式。

十二単もびっくりな代物で、一人で着るのはまあちょっとムリ。気密を保つために、動きの制約も多くて、たとえば腕は、ひじから下は動くけど、肩はほとんど動かないし、足も前後には動いても、左右に開くことはできない。また、内圧は0.27気圧で、オーランより若干低い。

宇宙服の内圧が、1気圧より低く設定されているのは、そうじゃないと真空中で身動きが取れなくなるからだ。

真空中に出た宇宙服は、風船みたいにパンパンに膨らんで、関節の曲げ伸ばしに大きな力が必要になる。1気圧では、下手をすると大の字に伸びきったまま、手を握ることさえできない。できたとしても、ものすごく力が必要で、あっという間に汗だくになり、ヘルメット内部も曇ってしまうだろう。

そこで宇宙服は、内圧を下げて、力をあまり入れなくても動けるようにしているわけだ。

ただし3分の1気圧の空気では、酸素が薄すぎるので、宇宙服では呼吸用に純酸素が用いられている。

一方、シャトルや国際宇宙ステーション(ISS)のキャビン内は、通常は1気圧(酸素21%、窒素79%)が保たれている。

この環境にいた人が、いきなり3分の1気圧の中に出ていくと、減圧症になる可能性がある。つまり、1気圧で血液や体液に溶け込んでいる空気中の窒素ガスが、減圧によって気泡になって出てきてしまう。血がサイダーみたいに、シュワシュワしちゃうわけね。

こうなると、よくて関節などの激しい痛み、下手をすると血栓ができたのと同じで、脳卒中や心臓発作を起こしかねない。

そこで船外活動をはじめる12時間以上前から、プレブリージングという、体内から窒素を抜く操作が行われる。具体的には、まず1気圧下で60分間純酸素を呼吸し、その終了直前にキャビン内の気圧を0.7気圧(酸素 27%、窒素73%)に下げて12時間以上保ち、最後に宇宙服を着て40分~75分の純酸素を吸って、ようやく外に出られるわけだ。

つまり今の宇宙服では、思い立ったら即宇宙ってことはできないわけね。

もっとも、この手順は繊細なアメリカの基準で、ロシアではプレブリージングなんかあまりしなくても、案外大丈夫だよ~みたいなレポートもあったりするらしい。

EMUの宇宙服が14層もあるのは、内側は水を循環させる冷却下着で、それを気密層で覆い、全体が膨らみすぎないように押さえる層や、層間の摩擦を小さくする層、断熱のためのゴムやアルミ蒸着層、小隕石対策のケブラーで補強されたゴアテックス層など、色々な機能を持たせるためだ。これに加えて、心電計などのバイタルモニターや、飲料水の供給器、紙おむつまで備わっている。

気密性と安全性を考慮して、かなりがんばって作られてはいるものの、将来、月面での有人活動が再開され、月面基地などの建設を人間が行うようになる状況を想定すると、今のままのEMUでは、やっぱり不便だとおもう。

なにしろ、重さが120キロあるわけだから、重力が6分の1の月面でも、最低20キロ相当の重りをつけて動くことになる。また、日なただと地面からの照り返しもあるので、断熱と冷却は、船外活動用よりもしっかりやる必要があるし、手足の可動範囲もより自然に近づけないと、作業効率に影響するだろう。

これらの難しい問題を解決する一つの答えが、固い殻で体を包み、関節を曲げても内部体積が変化しない外骨格型のスーツだ。

これなら内部を1気圧に保っても、風船のように膨らんで、身動きがとれなくなることはない。つまり、プレブリージングなどしなくても、必要なときすぐに真空中に出て作業を行えるわけだ。また、耐熱耐寒耐放射線などの機能も、この方式のほうが与えやすいだろう。これは見方を変えると、パーソナル宇宙船みたいなものともいえる。また、重量はあまり軽量化できないだろうから、どうしてもパワー・アシストが必要になるわけで、そうなればまさにパワード・スーツそのものだ。

昔、ガンダム関係の記事を書いたときに、こういうものから発展してモビルスーツが生まれたというようなストーリーにしたんだけど、今では、こういう宇宙服の開発も現実味を帯びてきているんじゃないかな。

かつて、H2ロケットの開発を主導した五代富文さんも、新世紀の宇宙服を創ろうと言っていたりする。

日本は、現実問題として、宇宙開発にあまりお金は使えない。だけど、こういうタイプの宇宙服を考えるという課題は、お金をそれほど極端にたくさん必要としないだろうし、日本の得意分野を色々総合できる。それに、宇宙服はある意味、小型の有人宇宙船みたいなものだから、その意味でも面白い。

問題はあまり重く複雑になりすぎると、それを宇宙に持って行くのが大変で、現実に使いにくくなるかも知れないということ。技術的には、けっこう難しいと思うけど、それだけにチャレンジングな課題なんじゃないかな。

最終更新時間 2008年06月29日 08:46

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