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2008/03/01

野尻さんの意見に答えます。

前エントリで、野尻ボードを運営していて、近頃は初音ミク界でも積極的な活動をされているSF作家の野尻抱介さんから長文のご意見をいただいたので、それにお答えしたいと思います。

まず前エントリで、ぼくは匿名性を賛美しているつもりはないんですよ。
世間の風潮が、あまりに匿名性を叩くものばかりという印象があって、そうではないよといいたいだけで。

2ちゃんねるのような人の心の集合体を、ぼくは何かのツールではなく、一種の生命体のように感じているのです。

こどもを育てるとき(大人でもだけど)、悪いところにだけ注目して、お前は悪い、ダメなやつばっかいうと、勇気がくじけてグレちゃうでしょ。親が子供を育てるときでも、健全なやりかたは、お前は基本的に良い子だけど、今のはちょっとダメだった、みたいなやり方をするわけです。実際その通りなのだし。

そういう意味で、2ちゃんねるという超生命体も、基本的には良い物だっていっているわけね。

それとは別に、2ちゃんねるという媒体に参加する一人の人間という観点からいうと、ぼくはそれほど荒らしとかにビクビクしている印象はないんだけどなあ。

基本sageはまあ、とりあえずサロンのドアは閉めてるけど、鍵はかけてないようなものだし、スルー力ってのもありますしね。

とくにぼくが2ちゃんねるのキモだと思っているのは、ほとんど生産性のないようなもの、たとえばひたすら(*´・ω・)(・ω・`*)ネー って書き込み続けるスレみたいなのなので、余計にそうだと思う。なんだか知らないけどほっとするんだよね。

2ちゃんねるの中に流れている書き込みの大半は、ぼーっとしているときにまとまりもなく心の中に浮かんでは消えていく思考の断片のようなものみたいな感じがします。意識的に論理的な思考をしようとするときではなく、何となくほわーんと、あーはらへったなー……そういやさっきいたあの娘かわいかったな……痴情のエンタングルメントとか面白いかも……そう言えばあいつ嫌なこといいやがって足の小指を机の角にでもぶつければいいのに……それにしてもはらへったな……みたいな移ろいゆく考えみたいな。そういうぐだぐだでうつろいゆくはかないものがあるから、あるとき予想もしないクリエイティビティがき突然浮かび上がってくる。

生産性の高さや合目的的な掲示板にするには、匿名性を排除した方が質を保てることは事実だと思います。野尻ボードはまさにそのことによって、あれだけの質の高さを維持できているわけですし。

> 国家体制を「お上」、隣近所や親類縁者を「世間様」と呼んでしまう日本人の国民性なんでしょうか。

 「お上」と感じる人が多いのは、民主主義や日本国憲法の本質を理解していないからでしょう。つまりリテラシーの不足が原因です。「世間様」はキリスト教文化圏の人のように倫理が強迫観念として個人に内在される文化じゃなく、まわりの反応で規定される日本文化ゆえの感覚でしょう。でも、それ自体は良いとも悪いとも言えない。ただ、炎上という現象が、その文化の副作用として起きやすいとは思います。

> 大きな社会は天災みたいなもので、抗いようがないのだ。
> こういう体質は「文明は意志の力で前進しなければならない」を信念とする私にはあまり健全と思えないんですけど、どうでしょうかね。

 それこそ、前エントリで書いた、リテラシーの問題だと思います。
 炎上を食い止めるには、それが自分に内在する問題だと自覚するほかなく、それを多くの人がリテラシーとして身につければ、大きな社会は天災だなどという馬鹿げた考えは持たないはず。
  そのリテラシーがあってこそ、文明を意志の力で前進させることができるんではないかな。

最終更新時間 2008年03月01日 22:17

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 なるほど、ちょっとつかめてきた感じです。
 私、2chで「なぜ必要もないのにコテハンなのか」と言われましたけど、文化の違うところでは「なぜ必要もないのに匿名なのか」と聞かれることもあるでしょう。
 私が20年のネット歴で培った活動指針は、古き良き?スタイルで、
(1)見栄を張るな。自分の非はすぐ認めろ。
(2)正直を貫け。ネタ以外で嘘をつくな。
(3)隠し事をするな。見られて困るものはネットに置くな。
 ――です。この指針に沿っていれば発言は自然に一貫するし、なにも恐れずにネット活動ができる。
 ネットの隠し事は簡単にばれるものです。仮に2chで匿名で語ったあと、自分の掲示板で同じ主旨を語ったら、「あのとき2chで語っていたのは野尻かも」と悟られる。2chで語ったのが別人でも、同一視されるかもしれない。それが嫌なので2chでも名乗ることにしているのですが、2chの人はそんなことを思いやってくれません。
「だったら自分の掲示板も匿名で書きゃいんじゃね?」「つか自分の掲示板なんていらなくね?」と返されそうな気がします。
 なんかこう、立脚点が根底からちがうんです。
 この違いが、鹿野さんのいう「2chは超生命体」という見方に通じるんでしょうか。
 私は指針(3)に従って「外向きの顔」で動いていますが、2chでは何もかも垂れ流しにされている。私は自分の指針にそっていても充分に本音を語れるし、欲求不満も感じないのですが、「超生命体」属の人はその欲求さえも自覚しないまま、自分の思念をネットに移しているような感じです。

 SF者として超生命体が面白くないわけがありません。人為の最たるものでありながら無為、無から生じた自己組織、とでもいうのでしょうか。2chは遠い未来まで受け継がれるべき、文化人類学の最良のサンプルと言えましょう。
 でも、同時にこうも思ってしまう。
「そんなふうに上から目線で観察される材料になって、本人は悔しくないの?」
 よかれと思って2chでなにか教えると「なんだよ、上から目線で語りやがって」と反発されることがある。無知や偏見、精神的排泄物を垂れ流しにしている人でも、プライドは一人前にある。そういう人たちは自分が超生命体の部品扱いされて悔しくないんでしょうか。
 一方で、こちらの蒙を拓く、脱帽するばかりの見識を述べる人も2chには少なくありません。議長も議決もないままスレッドを管理していく手腕も見事です。一日3スレッド消費するVOCALOID本スレなどは、進行速度に応じて柔軟に規範を変え、話題を交通整理しています。そういう誇るべきものに携わりながら、名前を明かそうとしない。
 この過剰な奥ゆかしさも私には理解できないんだなあ(^^;。日本では美徳だけど、文化が違えば愚か者扱いされかねません。(「日本人の美徳」なるものが、ムラ社会で叩かれないための処世術にすぎない、という説はさておくとして)

 そんなわけで「超生命体」は確かに興味深いけど、それを構成している「個」が虚のままなのは「文明は意志の力で前進しなければならない」という信念とはちょっと噛み合わないです。
 なんとかなりませんかね、これ。
 あるいは、なんとかしなくてもいいんでしょうか。
 そして「匿名だからこそできる」と信じられていることは、本当にそうなんでしょうか。単にデフォルト無名であるだけで、記名でもできることがたくさんあるんじゃないでしょうか。

投稿者 野尻抱介 : 2008年03月03日 17:07

2ちゃんねるとは関係なさそうだし、私自身2ちゃんねるを覗いたこともないし、ネットのコミュニケーションがどうなっていくのかなど、興味はありつつも、全くの門外漢なのですが、「匿名性」と言う部分で最近気になっていることがあり、コメントします。

工業製品のデザイン、いわゆるインダストリアルデザインを生業にしています。

日本の工業デザイナーは、ほとんどが企業に在籍し、ほぼ匿名です。アクオスやPSPをデザインしたデザイナーの名前を知っている人はほとんどいません。それでも、企業内のデザイナーはユーザーのことを考えて一生懸命デザインしています。また、一般に工業製品は、デザイナーだけの力でできているわけではなく、企画、設計、ソフト開発、製造、販売、アフターフォローなど、それこそ無名の大勢の力によって出来上がっており、この製品は俺がデザインしたんだなどと大声で叫ぶのはおこがましいと考えています。(それは、デザイナーだけでなくほかの部門の方も同じでしょう。)

そういう意味では、工業製品は「コンビニに入るとき、後から来る人のためにちょっとだけ扉を長く開けておいてあげるみたいな行為」の連続で出来上がっているといってもいいと思いますし、そのような全体のまとめ役をデザイナーが受け持っている部分もあり、益々匿名性を求められてしまうというところもあります。(まとめ役が「これは俺がデザインしたんだ」なんて言い出すと、周りの反感買いやすいですから。良くあるのが、「○○さんのお陰で製品化できましたね」「いえいえ、皆さんの努力の賜物ですよ」みたいな会話ですよね。)

そういう意味で言うと、メーカーの社員というのは、日々、鹿野さんの言う「匿名性の素晴らしさ」を体感しているのだと思います。

ミクミクダンスみたいなのは、お金が絡まないという部分が違うだけで(ものすごく大きな違いであるのは承知の上ですが)、やっていること自体は企業内での活動となんら変わるところはない様に思えます。

社内で「戦争へ向かうときの雪崩を打ったような世論の集中」が起きることも多々ありますし、「こういうことをすると叩かれる」「目立ったら荒らされる」という感覚も勤め人なら誰でも感じている部分だと思います。

だから、企業内に置き換えれば「そのリテラシーがあってこそ、文明を意志の力で前進させることができるんではないかな。」と言うのも、結構実感として理解できます。

さて、本題です。

では、これからも「匿名」のインハウスデザイナーがいればいいのか、といわれると、デザイン業界的にはどうなんだろう?というのが、私の疑問です。

これから益々、製品のデザイン、工業デザインは、大切になってくると思っているのですが、どうもこのデザイナーの「匿名性」が、次のステージへの足かせになっているんじゃないかとおぼろげながら感じています。何もデザイナー全員が深沢直人になる必要はないとも思いますが、いつまでも全員が匿名のままでいいのかしら、という疑問です。

リテラシーの問題でいえば、受け取る側と発信する側ではやはり立場が違う訳で、どちらかと言うとデザイナーは発信する側にいます。「記事の全てを記名にし、情報源をすべて明かしては、価値のある記事を書くことも非常に難しくなる」と言うのもわかるのですが、今の工業デザイナーはほぼ全員が「匿名」です。これは、やっぱり問題があるような気がします。

2ちゃんねると企業内の製品開発を同列に語るのは無理がある話しだとは思いますが、2ちゃんねるが匿名の世界だから輝き続けるように、工業デザインも匿名の世界だから輝き続けることができるのか、どちらもいつか失速するのか(最近のデザインはちょっと失速気味のように感じています。そう考えると2ちゃんねるも失速するのか?)、それともやっぱり、2ちゃんねると工業デザインの「匿名性」は全く違うものなのか、どうなんでしょうねえ?

もしかしたら、発信する側のリテラシーと匿名性は両立しないのでしょうか?

投稿者 木全賢 : 2008年03月05日 01:45

何度もすいません。
昨晩のコメントで修正です。
アクオスは喜多俊之さんのデザインでした。製品にデザイナーのサインが入っているという日本では画期的な製品です(皆さんご存知でしたか?)。
匿名の例として、アクオスでなく、ソニーのバイオを挙げておきます。他の製品でも同じなんですけどね。

投稿者 木全賢 : 2008年03月05日 20:32

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