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2007/12/02

宇宙に広がる生命

 スペースコロニーのアイデアは、アメリカの物理学者、ジェラード・K・オニールによって70年代に提案された。

この宇宙植民島構想のすばらしさは、それまで大勢を占めていた惑星偏愛主義(注1)を否定して、真空、無重量の宇宙空間こそが、人類の子孫たちの未来の住処であるとしたことだった。

ただ、この脱・惑星偏愛主義のアイデアそのものは、彼の独創だったわけではない。

 たとえば、プリンストン大学でのオニールの同僚でもあったフリーマン・ダイソンは、後にダイソン球殻と呼ばれるようになった、巨大な宇宙生命圏をイメージしている。

 ダイソンは1923年のイギリス生まれの数理物理学者で、アカデミックな業績としては1965年のノーベル賞となった、朝永振一郎、ファインマン、シューウィンガーによる量子電気力学を、数学的に仕上げたことで有名だ。また、破壊されても自動停止する安全な原子炉トリガ(TRIGA )の開発や、「1970年までに土星へ」というスローガンのもとに行われた、核爆発推進方式の宇宙船オリオン号の設計でも決定的な貢献を果たした。

 彼は1959年に、アメリカの科学誌サイエンスに、"Search for Artificial Stellar Sources of Infrared Radiation" と題する論文を発表している。
 当時、地球外文明探査(SETI:Search for ExtraTerrestrial Intelligence)が、現実の科学として始まろうとしていた。(注2)

 SETIのベースにあるのは、異星に文明があれば、彼らも仲間を求めて通信を試みるだろうという発想だ。従って、適切な天体にアンテナ(電波望遠鏡)を向ければ、異星人のメッセージを受信できるかもしれない。しかし、天空に無数に存在する星々を闇雲にあたっても、その電波をキャッチすることは困難だ。そこでダイソンは、どういう種類の天体を探すべきかの指針を示したのだ。

 ダイソンは、文明が発達すれば、それは一個の恒星のエネルギー全てを利用するようになると考えた。たとえば、太陽を地球軌道ほどの大きさの球殻ですっぽりと包み込み、一個の恒星の全エネルギーを利用しつくす文明が、きっと存在するに違いない。

 その恒星は、球殻に覆われているから可視光で見ることは難しい。しかし、熱力学の第二法則によって、恒星エネルギーの大半を廃熱として放出し、それは赤外線源として検出できるはずだ。このとき放射される赤外線は、生命圏が液体の水を含む生物に適する環境なら、主に波長10ミクロンの帯域で観測されるだろう。

 従って、天文学者はまず全天の赤外線源の一覧を作り、その表にある天体を光学望遠鏡と電波望遠鏡で注意深く観測すべきだと提案したのだ。

 我々の太陽系でこれを作るとするなら、木星を分解することで、地球軌道を包み込む厚さ2~3メートルの球殻を作ることができる。この、半径1天文単位のダイソン球殻の表面積は、2.72×10の17乗平方キロメートルで、地球の表面積のざっと6億倍だ。

 ただし、このダイソン球殻の内部は無重量の空間なので、球殻の表面に住むことは考えにくい。(注3)それではダイソンは、このような恒星エネルギー全てを利用する文明の姿を、どのようなものと考えたのだろうか。

 ダイソンは、オニールのコロニーの事を、「地球上の野生と宇宙の野生の、どちらからも隔離されて衛生的で過保護な生活を営める、ブリキとガラスで作られた缶詰」という。そしてその世界が「時の経つにつれて、ハックスレーの『すばらしい新世界』のようにならなければ幸いである」と、いささか批判的に評価している。

 彼が考える人類の子孫たちの姿は、自らの肉体を改造し、宇宙という野生に適応した存在だ。ずっしりした産業的ハードウェアに依存せず、宇宙空間で自由に育つ植物を利用して、彗星を乗り物に、星々の彼方まで播種する……。

 もし、そんな文明がこの銀河にまだ存在しないのなら、我々自身がやがてそれを創造するだろうという。宇宙は、地上とは全く異なった環境であり、人類の子孫がその環境に適応し、増殖し、無数の種に分化していくのは、進化の必然のはずだ。

 この、宇宙の野生に適応した人類の子孫という発想も、実はダイソンが最初ではない。彼自身、オラフ・ステープルトンの「スターメイカー」(1937年)からヒントを得たといっているし、さらに以前にこの種の考えを持っていた人もいる。

 コンスタンチン・エドアルドビッチ・ツィオルコフスキー(1857~1935)は、宇宙旅行を世界で初めて現実科学の俎上に乗せた、ロシアにおけるロケットの父だ。彼は1918年に発表した科学小説の『地球の外で』の中で、スペースコロニーのルーツというべき、地球の静止軌道付近で遠心力による人工重力をもった宇宙植民地を描いている。

 そして1895年の『地球と宇宙の夢』の中で、真空に適応し、ガラスの皮膚と、葉緑体を含んだグリーンの翼を備え、小惑星帯などの星間空間を漂う不老不死の存在を描いた。彼らは作中「あちこちの惑星では、たいていは水棲動物が最初に現れ、その次に空気を吸う動物がでてきて、最後に真空動物が現れるのさ」と語っている。

 また、英国の物理学者J・D・バナールは『宇宙・肉体・悪魔』(1929年)の中で、直径16キロで人口2~3万人規模の、球殻型のスペースコロニーについて言及している。

 これは回転しておらず、人工重力はない。球殻外側の層は透明で、その内部には葉緑体のような組織が網目状に張り巡らされ、太陽のエネルギーから炭化水素を合成する。その内側には、水や固体酸素、炭化水素などの貯蔵層、物質代謝を司る制御層があって、その内側に人々の生活領域がある。

 面白いのは、このコロニーが成長と増殖を行うことだ。古くなれば、内部に新たな球殻を作って脱皮したり、新しい部屋をラセン形に継ぎ足して成長する。あるいは、細胞分裂するように、球体の外にもうひとつの球体をつくって分離することも考えられる。

 コロニーの数が増えて資源の奪い合いが生じると、あるコロニーは太陽系を脱出し、数千年の時間をかけて別の星系へと移動する。まるでコロニー自身が、宇宙で繁殖し、増殖する巨大な生命体のようだ。

 このような宇宙に適応した文明、生命には、限界がない。

 1964年に、ロシアの天文学者、ニコライ・S・カルダシェフは、宇宙に知的生命体の文明が存在するなら、それは三つの型に分類できるとした。

 第一型の文明とは、一個の惑星の資源の全てを支配するレベルのもので、利用可能なエネルギーの量は4×10の12乗ワット程度になる。現在の地球文明は、あと一息でこのレベルに到達する段階といっていいだろう。

 続く第二型の文明とは、一個の恒星の資源を支配するレベルで、ダイソン球殻に象徴される文明だ。そこで利用されるエネルギーは、4×10の26乗ワットのオーダーになる。

 そして第三型の文明は、一個の銀河系の資源を支配する文明で、利用可能なエネルギーは2.4×10の37乗ワットになる。

 第一型と第二型、第二型と第三型の間の力の差は、1兆~100 兆倍程度もあるが、これも子が孫を産み、孫が曾孫を産む指数関数的な成長の前には、ごく小さな差に過ぎない。たとえば、年率1%ので成長する社会ならば、3000年ほどでこの程度の変化は起きるのだ。

 恒星間の距離は、人間による植民にとって絶望的に遠い。しかし、社会の寿命は、個人の寿命によって限られない。我々が宇宙旅行を光速の1%で行うにしても、一千万年以下で銀河の端から端まで植民することができる。

 そして、ひとたび第二型の文明を乗り越えはじめた生物は、想像しうるあらゆる自然的、人工的な破局によっても絶滅することはない。

 かつて人類の祖先は、豊饒で過酷なアフリカの熱帯雨林で育まれ、進化を遂げてきた。宇宙はそれと同じく、無尽蔵の太陽エネルギーという豊饒さと、真空、無重量、放射線という過酷さを備えた、新しい世界なのだ。その環境の中で、我々の子孫たちは永遠に進化を続けていくに違いない。

注1:他の天体の惑星上にドーム都市などを建設して、そこに移民しようとする発想:SF作家アイザック・アシモフによる

注2:世界初のSETIプロジェクトであるオズマ計画は、1960年にフランク・ドレークによって開始された。

注3:ダイソン球殻を構成する材料をニュートロニュームのような超高密度物質で作ったとしても、ガウスの法則によって球殻内面は無重量になる。回転させて人工重力を作る場合は、赤道部分が谷で極が山になってしまう。そこで、SF作家のラリィ・ニーヴィンは、ダイソン球殻の赤道部分だけを切り出したリング・ワールドを考えている

最終更新時間 2007年12月02日 00:06

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