ガンダム世界の巨大モビルスーツ
ターンAガンダムは、地味だけどわりと面白いよね。
それにしても、これは0079より1000年以上未来の話らしいけど、スペース・コロニーの住人は、いったいどこへ行っちゃったんだろう。
理論的には、スペース・コロニーに人類が住むようになったら、より広い宇宙に拡大していくことはあっても、コロニーを捨てるようなことはないはずなんだけどなあ。
テクノロジーもいったん途切れているみたいだし、コロニー落としでもやりすぎたんだろうか。それとも多くの人々は、他の太陽系を目指して出て行ったのかな。
まあ、それはともかく、ターンAのモビルスーツたちは、これまでのモビルスーツとはひと味違ったところがあるよね。シド・ミードのデザインってこともあるけど、こりゃあ面白いなって思うのは、みんな移動するときに、小走りにになっているってことだ。キビキビしていて、とてもよろしい。
いやしかし、実はあれは、ひょっとすると、ちゃんと意味のあることかも知れない。
近頃は、ホンダのヒューマノイド「P3」が、ニューヨークあたりの地下鉄の駅から歩いて出てくるご時世だから、ロボットが歩くことくらい、もう解決済みの問題と思われているかも知れない。
でも、歩くというのは相当奥が深い問題で、見かけ上歩いているというだけでは、まだまだ入り口に過ぎないんだよね。
たとえばP2が歩くところをそばで見るとわかるけど、足裏にゴムのショックアブソーバーがついているにもかかわらず、ドシンドシンとものすごい足音を立てていることがわかる。これは体重が130キロもあることも原因だけど、でも人間なら、もっと重い相撲取りだって、全く足音がしないように歩くことができるのだ。つまり、歩くことの中には、まだ工学的に十分に解明されていない、たくさんの内容が含まれているわけ。
そういうものを解明できるまでは、本当の意味で歩くメカができたとはいえないんだよね。
さて、そのうえで、ガンダムのような巨大なモビルスーツが歩くっていうのは、さらに難しい問題がある。
人間の普通の歩きかたは、専門用語で動歩行という。つまり、体の重心から下ろした垂線が、地面についている足の範囲から出る状態のある歩行だ。
これに対して、歩くロボットのおもちゃなんかは、重心からの垂線がいつも足裏の範囲に収まっていて外に出ることのない静歩行という。
動歩行は、ちょうど自転車と同じで、動いているときは安定しているけど、動きの途中で突然動きが止まると、そのままばたんと倒れてしまう動的な安定性を持った動きだ。そしてこれは、重力のエネルギーをうまく移動エネルギーに変換できるので、静歩行に比べて遙かに省エネになる。
そこで、人間の歩き方を観察すると、体の重心が前方に倒れていっては起き上がり、倒れていっては起き上がりということをくり返していることがわかる。
この動きを、地面が後ろに動いていて、足の裏が同じ場所に下ろされていると考えると、メトロノームの動きというか、逆立ちした振り子のように見えてくる。つまり動歩行は、体の重心と足裏を結んだ倒立振子で近似できる運動なんだよね。
そのため、重心から足の裏までの長さが等しい歩行動物や歩行機械は、同じ性質をもっていると考えることができる。
それで、この地球上に存在した最大の2足歩行動物は何かというと、それはあのティラノサウルスだ。
ティラノサウルスは身長は5~6メートルだけど、歩くときの姿勢や股関節の位置から推定すると、重心は地面から4メートルほどのところにある。
つまり、地球上でも、足の長さが4メートルの動歩行メカは作れるだろうってことだ。
そういえばターンAにはティラノっぽい走り方をするメカも出てきたよね。ただ、ガンダムの場合は、ファーストでも人間の10倍くらい(18メートル)もある。当然、足の長さも9メートルはあるから、それだけでも相当難しそうだ。
このガンダムが歩けたとして、どれくらいの速度になるのだろう。
動歩行のように、重力が重要な働きをする運動の場合、無次元速度という係数が同じ値になる動物や機械は、動力学的に全く同じ運動とみなすことができる。この無次元速度というのは、ようするに船などを作る時に、模型で流れの抵抗の様子などを見るシミュレーションで使われるものだ。
CGがなかった頃の特撮では、ミニチュアの船をプールに浮かべても、船に見合う大きさのさざ波は、動きが速すぎてリアリティがでない。そこで、スローモーションで見せると、本物の感じに近くなるってテクニックがあったけど、これは実は、無次元速度をあわせているということなんだよね。
この無次元速度を歩行動物やロボットに適用すると、
歩行速度
無次元速度= -----------------------
√脚の長さ×重力加速度
という式であらわされる。つまり、足の長さがn倍の時、移動速度は√n倍になる。
人間がかなり早足で歩くときの速度を、時速7.2キロ(秒速2メートル)くらい、脚の長さを0.9メートルくらいとすると、無次元速度は0.7前後の値だ。実は人間を含む哺乳類や鳥類では、歩くときの無次元速度はだいたい0.7以下で、それ以上になると走っている状態(両足が地面についていない瞬間がある)ことがわかっている。
つまり、身長が人間の10倍あるガンダムなら、歩行速度の最大値は、時速23キロくらいで、これ以上は走る状態になるわけだ。
また、歩行周期も√n倍になるので、一歩の周期は3倍くらいで、その動きは遠目にスローモーションのように見えるだろう。
逆にいうと、ガンダムのような巨大な2足歩行メカが、人間と同じペースで動いているように見える時は、歩くことは不可能で、自然に走る状態になる。つまり、ターンAの小走りは、理論的にはとても正しい動き方なんだよね。
この無次元速度とは、歩行速度を、脚の長さに重力加速度をかけたものの平方根で、割ったものだ。そのため、足の長さがn倍のものなら、移動速度は√n倍になる。
最終更新時間 2007年12月02日 00:01
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