スタトレを不朽の名作にしたマイノリティ・自閉者たち
スタトレを代表するキャラクターといえば、スポックとデータの二人が思い浮かぶ。実際、スタトレのシリーズがこれほど成功し、永い期間にわたってたくさんの人々に受け入れられてきたのは、この二人のキャラクターの力が大きかったといっても良いんじゃないかと思う。
それから、この二人ほど成功したとはいえないけれど、スタトレのシリーズでは同じ系譜に属するキャラクターとして、DS9のオドー、ボイジャーのセブン・オブ・ナイン、エンタープライズのトゥポルがいる。
彼らの特徴は、いずれも感情の理解、表現にハンディキャップを抱えながら、普通の人間をはるかに上回る能力を持っていることだ。
それは何かというと、高機能自閉症やアスペルガー症候群などを含む、自閉者たちのメタファーなんだよね。
ここで自閉症といわないのは、それは広い意味での個性であり文化だと思うからだ。
もちろん、「自閉症」という診断名は、そういう性質を持った子供たちを早い段階で見つけて、適切な療育を施すために必要なものだ。そして、早い段階から療育を施した子ほど、多数の定型者が暮らすこの社会=自閉者にとっては異文化の社会の中で、生き抜くすべを身に着けやすい。
つまり、診断名は適切な環境を整える道具として有効だけど、そういうものに過ぎないともいえる。「症」という言葉を見ると、何となく治療を必要とする病気のような感じがしちゃうけど、実際にはこれは病気ではないし、治療すべきものでもない。
ただ、かなり個性としてはきつくて、何の訓練も施されないで育つと、この社会の中ではコミュニケーションがうまく成立せず、非常に生きにくくなる可能性が高い。そこで、自閉者の性質にあった特別なプログラムで、この社会に適合できるような訓練を施すというのが療育という概念だ。
「自閉症スペクトラム」とか、「自閉者とそのいとこ」なんて言葉があって、一口に自閉者といっても、そこには大きな広がりがある。そしてその裾野は、間違いなく定型発達した、「普通の人」たちの中にも広がっている。
たとえば自閉者の中には、言語による思考が苦手で、視覚情報に基づいて考える人が少なくない。ただ、そのものの見方は、「普通の人」=多数派には極めて珍しいものなので、時代を劇的に変える画期的な洞察につながることも少なくない。たとえば、コンピュータの基本原理を考えた、アラン・チューリングは、まず確実に自閉者だったろう。また、ネットワークのさきがけといえる電話を発明したアレクサンダー・グラハム・ベルもそうだった。
実際問題、学者やおたくの中には、かなりの数の境界領域の人や、診断はされていないけど自閉者である人がいるのは確実だ。
つまり、スポックやデータの系譜は、そういう人たちにに対して、特別に訴えかけるキャラクターなのだ。
自閉者は「心の理論」の不全者であるという解釈があって、しばらく前まではぼくもそういうものだと思っていた。心の理論を持たないから、他者の心が理解できず、コミュニケーションがとりにくいというストーリーは、シンプルでとてもわかりやすい。
でも、それは無知による、不正確な認識だった。彼らは実際にはそんな単純なものではなく、もっと豊かな世界を持っている。
確かに、自閉者は、心の理論の発達が、定型発達の人の筋道とは違っている。また、生涯同じようにはならない事が多いだろう。発達もゆっくりなので、幼児期や青少年期には問題が生じやすい。
たとえば、ふくよかな少女を見て「デブだ!」とか言っちゃったりする。そうすると、その女の子や回りの大人は、そんなことを言うもんじゃないと怒るわけだ。
でも、当人にはその意味がわからない。
自閉者であるその子は、デブという事実を口に出しただけで、相手にコミュニケーションを求めていないからだ。それは横断歩道で「信号は赤だ」とつぶやくのと同じこと。
しかし、定型の人には、それは侮辱=コミュニケーションとしか感じられないので、頭ごなしに否定したり、怒りをぶつけてしまう。
また、自閉者は感覚の異常、運動能力の異常も伴っていることが多い。たとえば、雨が当たると痛いという人がいる。どうやら産毛の感覚が過敏で、毛を剃るとあまり感じなくなるという。
逆に、疲れるという感覚がなくて、何日も不眠不休で猛烈に活動したと思ったら、とつぜん動けなくなって数日ベッドの中で過ごさざるを得なくなるという人もいる。定型の人が気がつかない刺激に反応して突然叫んだり、衝動的に叩いたり、疲れを知らず回りを引っ掻き回すので、ものすごく厄介で性格の悪い人間だと思われてしまうこともある。
こういう「見えない障害」を抱えているがゆえに、当人には意味のわからない怒りをぶつけられ続け、強い劣等感にさいなまれたり、自傷行為を行ったり、反発して暴力的になることもある。これを二次障害という。
自閉者の個性は、回りが認め理解すれば、自閉者自身も成長するので、極端な問題にはなりにくい。でも、二次障害が起きてしまうと、それを癒すことはかなり大変だ。
最終更新時間 2007年09月30日 22:43
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