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2007/02/01

脳科学のダメな人・その1(前編)

 このところ脳ブームが続いている。
 書店に行けば、脳関係の新刊書がどんどん増えているし、テレビで脳、ゲームにも脳って感じで、まあ、なんというか。

 脳は確かに面白い。

 このブームの背後には、最近の脳研究の劇的な進歩がある。
 とくに脳機能イメージング、つまり脳が働いているときの様子を映像として見せる技術が、種類も増え、お手軽にできるようになったことで、興味深かったり意外だったりする成果が、じゃかすか出てきている感じ。

 しかし、どうなんでしょうね。

 たとえばゲーム脳。
 ゲーム脳というと、トンデモ系ではこの言葉を作った日本大学文理学部体育学科教授の森昭雄さんと、医療少年院勤務の精神科医であり、別名で横溝正史賞を受賞した文筆家でもある、岡田尊司さんの『脳内汚染』が有名だと思う。

 これらのトンデモさを、微に入り細をウガーって解説する言説は、ネットの中に無数にあるので、興味のある方はウィキペディアの「ゲーム脳」の項からたどると良いと思うけど、ここでは触れない。


 まあ、キレる子どもが増えているという客観的な証拠はないことと、統計では若者の犯罪は劇的に減っているし、異常な理解不能な犯罪は昔も今も変わらず一定の割合で存在すると言う事実だけで、これらの前提は覆っているわけだしね。

 ただ、もっとまともな装いの研究でも、実際にはへんてこりんなのだ。

 今の脳ブームのきっかけというか、底を支えているのは、東北大学教授の、川島隆太さんの研究にあるといって間違いないだろう。

 川島さんは、光トポグラフィ、あるいはfNIRS(functional near infra-red spectroscopy:エフニルス)と呼ばれる装置を使って、脳機能イメージングの研究を行ってきた。

 ヒトは体の割に脳が大きめの動物だ。まあ、一番じゃないけどね。
 とくに感覚知覚を支配する大脳が肥大していて、その大脳の中でも前方に位置する、前頭前野が特別大きくなっている。実際、アカゲザルでは、大脳のうちの10%が前頭前野だけど、人間は30%がこの領域だ。

 今では、この場所こそが、ヒトを人らしくする源ではないかと考えられている。なぜなら、コミュニケーションや、自分の気持ち・行動の制御、記憶、学習、集中力、自発性などは、全てここと関わりがあるからだ。

 そこで川島さんは、テレビゲームをしているとき、前頭前野がどうなるかを、エフニルスで計測することにした。

 実験前、指や目、頭を使うテレビゲームは、脳を大いに活性化させるだろうと予想されていた。しかし、結果は意外なものだった。

 不思議なことに、テレビゲームは、期待ほど脳を活性化させなかったのだ。前頭前野は、新しいゲームをやり始めた直後は活性化するものの、慣れてくるとかえって沈静化してしまう。

 さらに意外だったのは、比較対照として行ったクレペリンテスト(一桁の足し算をどんどんやるもの)をしているときのほうが、前頭前野が活性化することだった。

 科学の王道を行くなら、なぜそうなるかの原因を追及すべきだろう。しかし川島さんは、あえて別の、この結果を社会に還元する道を選ぶことにしたという。

 色々な行為をしているときの脳の様子を計測して、文章を読んだり、文章を書くときも、前頭前野が活性化することを明らかにした。それも、文章を黙読するよりは音読する方が良く、意味のある文章を読むより、無意味な言葉の羅列を読む方が活性化したり、キーボードで文字を打つより、手書きで文字を書いた方が、前頭前野が活性化することを見つけている。

 これらの結果から、川島さんは、簡単な読み、書き、計算は、脳を活性化する脳トレーニングに使えるのではないかと考えたという。

 そこで次に、老人施設の認知症の人たちを対象に、簡単な読み書き計算のドリルを毎日15分ずつ、行ってもらう実験を行った。これを「学習療法」という。

 認知症でいちばん問題になるのは、他者と上手にコミュニケーションができなくなることと、自発性がなくなることだ。このため、家族と暮らせなくなる。これらは前頭前野の衰えと考えられるので、それを高める方法を示せれば、それはすばらしい社会貢献だ。

 この学習療法では、学習する側と支援する側が、マン・ツー・マンでコミュニケーションすることが重視された。

 つまり、プリントを全員に配って勝手にやってもらうのではなくて、一人の支援者が一人を担当して、問題を一問ずつ出しては、答えてもらうというやりかたをした。また、この学習療法の目的は、読み書き計算ができるようになることではなく、脳を活性化することなので、相手のプライドを傷つけず、確実にできる問題が選ばれ、さらに正解したら本人と支援者が喜び合うようにすることを重んじた。

 この学習療法を3ヶ月続けたところ、19人の被験者のうち、前頭前野の働きは11人が改善、1人が維持、7人が下降した。また、認知症の度合いは8人が改善、3人が維持、8人が下降という結果になった。

 従来の介護の世界では、認知症になると症状は悪化する一方で、現状維持すらあり得ない。つまりこの結果は、非常に良いものだったわけだ。

 特に数値には表れなかったものの、全体の印象として、2週間から1ヶ月でコミュニケーションが上手になり、笑顔が出始める人が現れ、2ヶ月で身辺の自立能力が改善したという。全体の数割程度だけど、自分で食事や着替え、トイレに行けるようになった人もいたそうだ。

 また、川島さんは、認知症ではないけど、正常よりも機能の低下した状態の人についても脳トレを試みた。

 認知症を調べるテストがあって、これで軽度認知障害と評価されると、1年で2割ほどの人が認知症になることがわかっている。そこで、そのような人に同様のトレーニングを行った結果、9割が改善する事がわかったのだ。

 これらのことから、川島さんは、いったんなってしまった認知症を元に戻すのはなかなか難しいけど、予防したり進行を遅らせる事は可能だろうという。

 また、平均年齢40歳の人を対象に、簡単な読み書き計算のプリントを配って、週に5日以上脳トレをやってもらい、毎週短期記憶のテストをやったところ、その能力が改善されたという結果も出ている。

 つまりこれらの研究が、書店にあふれている脳トレ本や、「脳を鍛える大人のDSトレーニング!」などの、脳鍛えゲーなどの根拠になっているわけだ。

 そして川島さんは今、さらに子供の教育に、自分の研究を活かそうと、目標を定めているという。

 ここ最近、キレやすい子供が増えているということを良く耳にする。大人しく授業を受けられない子供が、増えているという。もっともそれには、きちんとした統計があるわけじゃない。

 だから、その前提で考えるのは危険かもしれないけれど、もしそれが事実なら、キレやすさや落ち着きのなさは、前頭前野の発達が鈍いと考えられる。そしてそれは、脳トレで改善できるかもしれないと川島さんは言っている。

 実際、学校教育の現場で、この脳トレと非常に良く似たものがある。百ます計算(100個のますを使って、クレペリン検査のような簡単な足し算をするもの)で有名な、陰山メソッドだ。

 これは、立命館小学校副校長で、文部科学省・中央教育審議会の特別委員の陰山英男さんの提唱する学習法で、単純な読み書き計算を徹底的に反復することで、学力が向上するというものだ。
 
 この100ます計算を授業のはじめにやると、脳が活性化されて、その結果、子供たちは授業を大人しく聞き、算数だけでなく国語など他の強化の成績も上がっているという。

 だけど……

最終更新時間 2007年02月01日 04:47

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