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2006/11/11

メメクラゲに刺されたらどうしたらいいの?

 ぼくの友人に、大学病院に勤務する小児科医がいるんだけど、彼から聞いた話。

 最近は医学部志望者は増えていて、女性の率も高くなっている。女性のほうが成績優秀なので、今では研修医の50%くらいが女性だそうだ。

 女性がたくさん医者になるのは良いことだ。でも、現実はなかなか厳しい。

 医師として、いちおう一人前といえるようになるのは、最短でも28~29歳の頃。結婚、出産を考えると、この年齢は考えどころだ。

 すでに医師の数が絶対的に不足している現状(2004年に、日本は医師数、医療費ともG7で最下位に転落)で、その過酷な職業と、子育ての両立は、極めて難しい。そのため、せっかく油がのりはじめたところで、辞めてしまうケースが増えている。

 まあ、子育てが終わったら復帰したり、パートタイム的に働いてくれれば良いのかもしれないけど、現状の医療システムでは、それはほとんど不可能のようだ。

 しかも、問題はそれだけじゃない。

 研修医の研修のシステムが、去年(だったかな?)から変わって、研修医が特定の医局に属さなくなった。

 医局制度は、子供っぽいいじめや権力闘争が蔓延し、患者の利益より医師のプライドが優先されたり、医療ミスの隠蔽や、研修医の過剰労働などにも関わる、まあ、悪の温床だよね、みたいなエピソードが数多く語られてきた。

 それが無くなるのは悪くないと思いきや、それによって、医師として育つ上での貴重な経験が得られにくい状況ができてしまったようだ。

 この制度の改定で、研修医たちは各人バラバラに、ある決められた時間だけ、色々な診療科を研修することになった。これで、研修医の過剰労働の心配は少なくなった。

 でも、その結果、頻繁に顔を合わせて、色々なことを相談できる親しい先輩も、できなくなってしまった。研修医には、迷いや悩みが多いのは当然だけど、それを誰かに相談することもできず、孤立したまま困難に立ち向かうしかなくなったわけだ。

 また、たとえば外科の手術を後ろで見学していて、5時になると「時間になったから帰ります」とか、研修医が普通に言うようになった。指導医は当然、「帰りなさい」としかいえない。

 でも、医師という仕事の本当の面白さがわかるのは、時間外なのだ。時間外には、自分の予想を越えた色々なことが起きる。どう見ても死んじゃうよ、みたいな患者を必死で治療して助けたときの、うおー、やったぜと言う達成感。この手技はまだ早いけど、ちょっとやってみる?みたいなお誘い。忙しくて死にそうなのに、古株の看護婦さんに無理矢理飲みに引っ張られていったりして学ぶ、人間関係の機微。

 何でこんな事しなくちゃいけないんだ、そんなの無理に決まっていると思うような、さまざまな体験を重ねることで、それ以前に自分が思っていた以上の可能性を自分の中に見いだしていく。それによって、医師という仕事の本当の面白さや、やりがいに気がついていけるわけだ。

 人間誰でも、楽をしたい。それは大人でも子供でもそうだ。望んだことを少しでも効率よくできれば、それに越したことはない。そもそも文明とは、そちら方向に進んでいるわけだしね。

 ただ、そうはいっても、現実の大半は、あることを望むとき、それに付随する嫌なこと、無駄なことを否応なくやる必要がある。そして、その、嫌なこと無駄なことををやることが、それ以前の自分の予想を超えた、自分の可能性を発見させてくれるわけだ。

 無駄なことや嫌なことは、無いに越したことはないと思うのは当然だけど、本当にそれを削り取ってしまうと、非常に重要な何かを失うことになる。

 研修医の新しい制度は、そのような無駄で嫌な、貴重な経験をさせ難くしている。ただ、効率よく、カリキュラムを時間通り消化させるだけだ。

 そうなると、みんな浅い体験で、苦労すると分かり切っている診療科は選択しなくなる。
 全て解っている気になって、うまくやっているつもりで、簡単すぎる道しか選ばない。

 実際、最近の研修医の大半は、大変だとされる診療科を選ばなくなっている。産婦人科を選ぶ人がいなくなっているとは、しばらく前から言われていたけど、小児科はもちろん、外科までいなくなっているそうだ。

 逆に大半は、楽だとされる診療科、皮膚科とか眼科を希望する。とくにいちばん人気は眼科で、5年後くらい後には眼科医になる人しかいなくなるとのこと。

 そうするとあれだ、メメクラゲに刺されたらどうしたらいいんだろう。
 水道局に行っても、蛇口はつけてくれないだろうしなあ……

最終更新時間 2006年11月11日 08:18

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