好奇心の遺伝子?
幸福感の遺伝の話では、あの実験で使われた幸福感って言葉が意味するものは、本当はどうなのよっていう曖昧さが残ったわけだけど、性格の遺伝に関しては、すでに、もっと物質ベース、つまり遺伝子や、脳神経の受容体分子のレベルで明らかになってきているものもある。
それは「好奇心」の遺伝子とかいわれたりすることもあるんだけど、学問的には「新奇探索傾向」「新奇探求行動」とかの言葉で訳されている、ノベルティ・シーキング(Novelty Seeklng)という性格だ。
ノベルティ・シーキングは、字面からすると、新しい物好きみたいな感じで、確かにそういう性質ではある。でも、同時にそれは、無鉄砲さという側面もある。
なんか、新しい物好きと無鉄砲さにどんな関係があるのか、直感的にはわかりにくいかも知れないけど、まあ、今まで誰も見たことのないような新しいことを求めるというのは、ある意味危険を冒すことも厭わないということで、だから無鉄砲さとも関係するって感じかな。
ノベルティ・シーキング傾向の強い人は、危険なスポーツをしたがるし、非常に速いスピードを出す乗り物が好きだったりする。また、ギャンブルやたばこ、ドラッグにはまりやすかったり、戦争に真っ先に志願する人もこの傾向が強い。また、外向性とも相関していて、一目置かれたいとか、リーダーシップを取りたいという傾向もある。
あと、なんでも平等視する人が多く、エリートは嫌いらしい。まあ、自分がリーダーシップを取りたいタイプなんだから、自分より上に立つ人がいることはあまり心地よくはないのだろうし、だから平等が好きなんだろうね。自分が上の立場になったとき、下のものに対しても平等であるべきと思うかどうかはわからない。
それと、環境問題に関心の高い人も多いようだ。
職業的には、レーサーとか警官、マスコミ、外科医、ベンチャー起業家とかに、この傾向の強い人が多い。
まあ、このノベルティ・シーキングという性格も、ある質問用紙でアンケートを行って、その程度を測るものではあるんだけどね。
で、このノベルティ・シーキングという性格が、神経伝達物質のドーパミンを受け取るレセプターのうち、D4というタイプのものの遺伝的な違いと相関しているという研究が、1996年にイスラエルとアメリカの研究者によって発表されている。
(Dopamine D4 receptor (D4DR) exon III polymorphism associated with the human personality trait of Novelty Seeking.:Ebstein RP, Novick O, Umansky R )
脳の中の神経細胞は、細胞内は電気で信号が伝わるんだけど、細胞と細胞のつなぎ目であるシナプスのところは、神経伝達物質という分子を使って信号を伝えている。
この神経細胞には色々な種類があるんだけど、一つの神経細胞は一種類の神経伝達物質しか出す事ができない。
で、神経伝達物質のほとんどは、アミノ酸だ。
中でも、興奮性の神経細胞(つながる下流の細胞を興奮させる細胞)の神経伝達物質はグルタミン酸で、抑制性の神経細胞(つながる細胞下流の細胞の興奮を抑える細胞)の神経伝達物質はGABA(ガンマアミノ酪酸)が主。
グルタミン酸は、みなさん御存知、味の素のアレだ。
一方、GABAは、最近はチョコレートとかヨーグルトとか、これを入れた商品をたくさん見かけるようになったので、言葉として知っている人も多いと思う。
GABAは薬として投与すれば、てんかん発作とかを抑えたりするし、食品に添加されるのは、たぶんリラックス効果があるというイメージなんだろう。血圧を下げるという話もあるしね。でも、まあ、食べることで何か効き目があるかというと、それは限りなく怪しげだけどね。
神経伝達物質にはこのほかに、モノアミン系というのがあって、それを使っている神経細胞の数は、グルタミン酸やGABAを使う神経細胞の数の1000分の1くらいしかない。それは一つには、この神経伝達物質を使う神経が、脳の中の特定の場所にしかないことと関係しているのだろうけど、ところが、そんなマイナーなモノアミン系の神経伝達物質が、人の心の状態に大きな影響を与えていることがわかっている。たとえばセロトニンは脅迫障害や鬱病と密接な関わりがあるし、ドーパミンは意欲とか、常習行動とか、妄想と関係がある。
そして、ノベルティ・シーキングに関係するのも、このドーパミンだ。
ドーパミンは神経の末端から放出され、接続する次の神経細胞にあるレセプターにくっつく。このドーパミン用のレセプターは、人の脳ではD1~D5まで5種類ある。同じ物質が結合するレセプターが何種類もあるのは不思議な感じだけど、それぞれどうやら別の働きがあるらしい。
たとえば、統合失調症の薬は、このD2とD5に結合すると、統合失調症に特有の妄想を抑えることがわかっている。
一方、ノベルティ・シーキングの強さは、D4レセプターの個人差で違ってくるというのが、上の論文の内容だ。
D4レセプターを作る遺伝子は、いくつかの領域に分断されて存在しているんだけど、それの前から3番目の領域に含まれている、ある配列の繰り返し回数が、人によって違っていた。今のところ知られている範囲では、この繰り返しが、2回、4回、7回の人がいて、この繰り返し回数が多いほど、ノベルティ・シーキングの傾向が強いのだ。
そして日本人でもこの繰り返しを調べられているんだけど、その結果日本人には7回繰り返しの人が、おそらく全くいないことが明らかになっている。つまり、日本人はどちらかというと、ノベルティ・シーキングの傾向が弱い可能性がある。
あと、この繰り返し回数は動物でも調べられていて、たとえば岐阜大農学部生物資源生産学科の村山美穂助手の研究グループは、犬のD4レセプターの遺伝子を調べたところ、一般的におとなしい性格といわれるゴールデンレトリバーでは、繰り返し配列が短く、活発だといわれる柴犬では長いことが明らかになっている。
ちなみに、この繰り返し回数が多いレセプターほど、ドーパミンの感度が悪くて、たくさんドーパミンを受け取らないと、働かない。つまりたくさん刺激を受けるまで働かないので、強い刺激を求めがちな、ノベルティ・シーキングと関わっているのではないかともいわれている。
ただ、これももちろん完璧にこれだけで説明できたって話でもない。なんだか怪しげなところも多々あるしね。たとえば、3種類の長さしかないからといって、人のノベルティ・シーキングの程度を3種類に分類できるかというと、そんなことはあり得ない。
こういう性格に関係するのは、おそらく数十、数百の遺伝子が関連していて、たとえD4レセプターの繰り返し配列が短くても、別の遺伝的要素がノベルティ・シーキングを高める可能性はあるだろう。それに、環境要因によって現れが変わってくるということもあり得る。
とはいえ、ヒルマン監督が洞察した日本人の性格というのは、このノベルティ・シーキング傾向の低さの現れという感じがしないでもない。
あと、エクストリーム・スポーツとか、外人が編み出す競技の中には、ちょっと日本人の感受性ではあり得ないくらい危険なものを、平気でやる人が多い気もする。
スケボーとかでやってるみたいな、U型の溝を使って自動車がぶっ飛んでます。
しかも、自動車が空中にあるとき、ドライバーがドアを開いて、
外に出てきてる((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル
こういうコトできる人は、なんかもうD4の繰り返し配列がすげえ長そう。
7回繰り返しどころか、20回繰り返しでも良さそうな感じだけどね。
最終更新時間 2006年10月28日 21:00
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