ヒルマン監督の洞察力
体調不良とか色々あって、しばらく更新を休んでしまいました。
お詫びに、今月末まで、なるべく毎日更新しようと思います。
まあ、ヘタレなので続かないかも知れないけど、とりあえずそう宣言しとくよ。
実はぼくは、野球にはほとんど興味がない。
まあ幼い頃から、『黒い秘密兵器』とか『どろんこエース』、『流星球団』などの魔球漫画が好きで片っ端から読んでいたから、ルールはある程度知っていたけど、あれは野球が好きで読んでいたわけではなくて、SFを読む感覚で好きだったのね。
実際の野球をプレイすることや、試合を観戦することには全く興味がなかったし、今でもそれは変わらない。
ところが、先日、10月17日にNHKのクローズアップ現代で放送された「日ハム優勝に秘密あり」を、他のことをしながらチラ見していて、凄く面白い事が語られているなあと思ったのでした。
北海道の日本ハムファイターズは、25年ぶりにリーグ優勝をしたそうだ。(そんなことも知らなかった。それくらい興味ないのね。つーか、北海道にも球団があるんだ!とか思った)しかも、ここ数年どん底状態が続いていたのに、優れた選手を補強したとか目立った事をしたわけでもないのに、突然のぶっちぎりでの優勝だったそうだ。
一体なにが、こんな不思議を可能にしたのだろうか。
それは、結論を先に言うと、ヒルマン監督の優れた洞察力のたまものだ。
ヒルマン監督は、アメリカでは監督としての長い経験と実績を持った人だったらしい。
その彼が日ハムに招かれてまず試みたのは、長打を基本とするアメリカ流のベースボールだった。自分の監督としての能力に、実績もプライドもあった人なのだから、これはまあ当然だよね。
ところが、その方法では全く勝てず、長期低迷状態に入ってしまったそうだ。
それはヒルマン監督にとって、不思議で納得のしがたいことだったろう。
そこでヒルマン監督は考えた。
アメリカ流「ベースボール」は、長打をバリバリ打たせるのが基本だ。
たとえ9回まで3点差で負けていても、満塁ホームランで一発逆転みたいなことよしとするのがアメリカ流。
一方、日本の「野球」は、4点リードしていようが5点リードしていようが、バントを使って1塁ランナーを2塁に進めるような、アメリカ人の感性からすると理解しがたい戦略をとる。
しかし、それは日本人の気質に合っているのではないか。
9回で3点差とかだと、日本人はまあ「終わったな……」とか思って、あきらめムードになる傾向がある。でも、それはベースボールをプレイするアメリカの選手には、ちょっと想像しにくい感受性らしい。
どっちかっつーと、冒険野郎どもが多いアメリカでは、俺様が一発逆転しちゃると、多くの選手が素で思うようだ。まあ、もちろん個性はそれぞれだろうけど、全体の傾向としてはそうらしい。
こういう派手に突出して目立とうとする行為は、一歩間違えば大失敗につながるわけで、自分を危険にさらすことでもある。でも、そういうリスクに対する耐性が、アメリカのベースボール・プレイヤーにはある。
一方、日本人は、こつこつ堅実に、少しずつでも歩みを進めて、確実に勝利に近づいていくほうが「安心」する。つまり、冒険野郎ではない。言葉を変えると、ビビリというかヘタレというか。
ただし、いったん仕事が与えられると、要求水準を越えるレベルで、完璧にやり遂げる才能がある。(これも、まあ、枠からはみ出ないのが安心という性格の現れで、ビビリの変形ともいえるのだが)
こつこつかせいで、ため込んで、安心安心。それが日本人の感覚にあっている。最近はそうでもないかも知れないけど、貯金大好き日本人ってわけ。
このことに気がついたヒルマン監督は、シーズン前からバントの練習を徹底的に行い、シーズンが始まるとバント策を多用して、去年までリーグ最低だった送りバントの数を、リーグ最多にまで引き上げた。そこまでやるかと言うくらい、バントをやりまくった。
これはある意味で、日本の野球を越えたやり方だった。
ヒルマン監督のもう一つの洞察は、キャッチャーの重要性に気づいたことだ。
アメリカのベースボールでは、キャッチャーは日本ほど重要視されていないらしい。
何しろみんな冒険野郎なのだ。
ピッチャーは皆、オレサマちゃんの投げたいところに投げるべ、というのが基本で、キャッチャーの言うことなんて聴くわけがない。というか、そもそもそういう発想が薄い。
しかし、日本の野球は、キャッチャーを非常に重視する。
キャッチャーは、野球における司令塔とかいって、最も賢い存在であり、野村監督とか古田とか、人心の理解に長けた人っていうエピソードが山のようにある。
日本における優れたキャッチャーは、相手チームのバッターの心理を読みとり、時に意外なつぶやき戦術さえ用いて心理的に攪乱する。さらに、味方のピッチャーの心理を洞察して、逃げに入っているなとか察すると、さっとマウンドまで行き、適切な言葉かけをして心理的に安定させる。
講談社のアフタヌーンで連載されている、ひぐちアサの『おおきく振りかぶって』という漫画がある。女性作家の描く、今までにない野球漫画なので、知っている人も多いと思うけど、これはまさにキャッチャーと監督の洞察力を中心に描かれている作品だ。
この作品の主役チームのピッチャーは、対人恐怖症かと思えるほど自分に自信がなく、また、たいして速い球が投げられるわけでもない。しかし、猛烈に練習をしていて、コントロールは極めて優れている。で、このピッチャーのビビリを癒し、指示通りの場所に投げさせることで、とても勝ち目がないと思われていた強豪を打ち破らせるのが、洞察力に優れたキャッチャーなのだ。
さらに、このチームの女性監督も洞察力に富んだ人物で、選手それぞれの人間関係や心理を細やかに把握して、適切なトレーニングや指示を行っていく。
ぼくは男だから、女だから云々みたいな表現は好きではないし、ほとんどの場合、そういうお話は間違っていると確信しているんだけど、このような作品は、やっぱり男には発想しにくかったような気がする。
ひぐちアサには、野球というゲームについての深い理解がある。そして、そこにさらに、人の心の微妙さを繊細に織り込むことで、今までにない野球漫画を創造した。
野球というゲームに対する理解については、男性作家にも負けない人はいると思う。でも、こういう心の繊細な変化に着目してそれを描くのは、やはり男性より女性のほうが得意のような気がする。
話を元に戻すと、このキャッチャーの重要性に気づいたヒルマン監督は、「抑えのキャッチャー」というものを導入した。抑えのピッチャーとペアで、キャッチャーも変えることで、ピッチャーの心理が安定して、防御率が前年に比べて大きく引き上げられたという。
キャッチャーの重要性は、日本人なら誰でも知っていることだけど、抑えのキャッチャーというところまで発想する人はいなかった。これはもう、ヒルマン監督という異文化出身の人だからこそできた、野球を越えた超野球といえるのかもしれない。
最終更新時間 2006年10月23日 06:38
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