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2006/06/10

身体の未来・進化の繭(後編)

 この変化は,単にアスリートたちに留まるものではない。むしろこれは,現代文明が志向する大きな変化の一例にすぎない。
 1994年,F1レーサーのアイルトン・セナがレース中に激突死した。
 F1は,時速300 キロという超高速度のレースで,危険がつきものではある。しかし,車体構造や材料技術の進歩で安全性は向上しており,1982年以来,死亡事故は起きていなかった。ところが1994年には,セナ以外にも死者が続出し,事故の数も大幅に増加している。
 その原因は,レース主催者のFIA は否定しているものの,ハイテク禁止のせいであることは間違いないだろう。とくに影響が大きかったのは,アクティブ・サスペンションが使えなくなった事だ。これは,アクチュエータ(モーター)を使って,道路のデコボコやGのかかり具合に応じて車輪を出し入れ(バネのかたさを固くしたり柔らかくしたりする)し,車の姿勢を一定に保つ技術だ。セナが運転していたウィリアムズ・ルノーが,92,93年と続けて圧倒的な強さで年間王者に輝いたのは,優れたアクティブ・サスペンション技術によるところが大きいといわれている。
 そこでFIA は,ドライバーの運転技術の比重が下がり,スポーツ性が失われたとして,ハイテク禁止を打ち出した。しかしこれは,アクティブ・サスペンションというテクノロジーに守られた中で最高の能力を発揮するようチューニングされたレーサーを,荒れ地で競争させる結果になってしまったわけだ。
 我々は知らず知らずのうちに,テクノロジーの殻によって包み込まれている。それによって,生身の人間では決してできないことでも,安全に,易々と実現できるようになった。そして当然,その殻の内部にいる人間の性質も,以前とは違ってきているのだ。
 この変化に戸惑い,元に戻そうとしても,そこにはどうしても無理が生じる。FIA の判断はその好例だし,また同じ1994年の4月に名古屋の小牧空港で起きた,中華航空機の墜落事故からも同種の迷いが生じている。
 この事故は,操縦系統のコンピュータが,着陸やり直しモードに入っていることに気づかなかったパイロットが,あくまで着陸を強行しようと舵を切り続け,最後にミスに気づいてオートパイロットを切ったことが,直接の原因だった。このため,舵が急速に機体を下に向ける方向に動き,失速,墜落してしまったわけだ。人と機械が,互いに矛盾した操作ができるのは,明らかにマン・マシン・インターフェースの設計ミスだったわけだが,不思議なのは,より進んだ機体では,このような矛盾が起きた時,自動操縦が解除されるように改造されていることだ。
 現在の旅客機の自動操縦の水準は,人間の能力を遥かに越えている。燃料を節約するエネルギー効率の高い飛びかたができるし,鳥も飛べない荒天でも離着陸が可能になっている。それに加えて,今のジェット機の舵は,腕力で動かす事は不可能で,猛烈な風圧に耐えて舵を切るのは電気モータなのだ。
 だとしたら,人と機械の間に矛盾が生じた場合,機械にまかせるのが,合理的なのではないだろうか。いざという時は人間の手にゆだねるという考えは,すでに幻想なのだから。
 いずれにせよ,ここでも技術は,安全性と,高い能力を保証している。安全なのは,人間が生の自然と触れあわないように守られているからであり,自然を直に操作する必要がないから,人間以上の能力が発揮できる。
 ただその性質は,どことなく過保護的で居心地が悪い。
 世界初の体細胞クローンである,羊のドリーが誕生したことで,世界は人間のクローン製造に敏感に反応している。しかし,クローン体は一卵性双生児よりも遺伝的には遠い(細胞質の遺伝子は異なる)し,20年間育てなければ20歳のクローンにはならず,精神を移植することも不可能なので,独裁者のクローンなどというホラー的な問題は起き得ない。また,不妊女性が自分の子供にしたいとか,亡くなった我が子のクローンが欲しいとうケースもあるようだが,これは多分に神経症的な幻想であって,赦されたとしてもメジャーになることはないだろう。つまり,やったとしても極端に高価な技術になるので,利用者はさらに限られる。どうしても子供が欲しい場合,大多数の人々は,養子をもらうという妥当な選択を行うだろう。
 そういう意味で,人間のクローン製造は,さほど大きな問題にはなりえない。しかし,クローン技術は,それとは次元の違うところで社会的変化をうながしていくだろう。
 体細胞クローンは,トランスジェニック動物の育種(品種改良)に欠かせない技術だ。
 トランスジェニック動物とは,異なる生物の遺伝子を組み込んだ動物のことで,たとえば人間の遺伝子を組み込んだウシの脳や,ブタの心臓が,移植臓器として研究されている。
 ウシの脳を人間に移植するというと意外かもしれないが,脳という臓器は,精神の座というより,ホルモンなどを分泌する生理化学的中枢としての役割が大きい。そこで,たとえばパーキンソン病治療のため,不足したドーパミンを作りだす細胞として,ウシの胎児脳を使う研究が進められているわけだ。
 移植医療が進んでも,臓器の絶対数は常に不足する。しかし,ブタやウシなど,飼育しやすい動物の臓器を利用できれば,多くの命を救うことができるようになる。
 ここでネックになるのが,超急性拒絶反応という反応だ。これは種の違う動物の臓器を移植した時だけに起きるもので,移植後数分から数時間で血液が凝固し,臓器全体が破壊されてしまう。その原因は,血液中の液生免疫(抗体)で,血管壁からつき出た異種分子を認識して攻撃が行われる。
 そこで,ブタに人間の遺伝子を組み込み,血管表面に人間の臓器であることを示す分子を出現させることで,液生免疫の目を欺く移植臓器が作り出せるわけだ。(それでも,細胞性免疫(白血球など)の働きによる拒絶反応は起きる。ただしこちらは,通常の免疫抑制剤で対処できる)
 この種の移植用動物は,技術的にはほぼ完成しているものの,遺伝的に不安定で,交配で子孫を増やすと,その過程で導入した遺伝子が抜け落ちる可能性が高い。しかし,体細胞クローンなら,その心配なしに,移植可能臓器をもったウシやブタを大量生産できるわけだ。(ドリーを産んだグループは,すでに人間の遺伝子を組み込んだクローン羊のポリーも誕生させている)
 さらに将来には,オーダーメードで移植される人の遺伝子を組み込んだ動物を作り,免疫抑制剤の一切必要ない移植臓器を作る時代がやってくるだろう。そうなれば,今あるほとんどの病気や,老化すら克服可能になるだろう。しかもこの技術を応用すれば,美容整形やピアッシング,タトゥーの延長上に,ファッションとして豹やミンクの皮膚を移植したり,ヤマアラシのトゲ,ヤギの角,トラの牙などを人体に植えつけることも可能になる。
 もちろんこれらは,今の我々にとって気持ちの悪いイメージだし,可能だとしても,倫理的に批判されることは間違いない。しかし,人類の活動の場が宇宙へと広がっていけば,事情は変ってくる。
 現在の人口増加と地球環境問題を考えると,文明を維持するには,ここ200 年あまりのうちに,人類は宇宙へ進出する必要があるだろう。そして,宇宙で生まれ,育ち,死んでいくようになれば,人の心は自ずとかわるのだ。
 宇宙空間は,放射線の影響が地上よりも強く,先天異常の発生率や発ガン率が上がることは間違いない。そうなれば臓器の取り替えや,遺伝子治療,遺伝子改造などはポピュラーな医学として定着するだろう。その結果,地上の古い観念に縛られることのない,新しい時代がやってくる。そのとき人間は,能力はもちろん,姿形から精神構造まで,今の我々とは大きく違った存在に変化しはじめる。
 テクノロジーは,高い能力と安全性とを引き換えに,人間と,ナマの自然との間に被膜を作る。そしてその内部で,人間は知らず知らずのうちに変化していきつつある。
 テクノロジーの被膜は,人類を,より新しい生き物へと進化させる,進化の繭といえるのかもしれない。

----以上

 文明は人類のまとうパワードスーツ、つーことで。

最終更新時間 2006年06月10日 09:20

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はじめまして。
3人の男の子を持つ母です。
我が家の3男坊が大好きそうな
話題のブログだったので、おじゃましました。
でも、彼には教えない。。。。
この情報をちょっと自慢げに
彼の前でしゃべってみようかなぁ。
いつもは、聞き役なので、ちょっと負けじ劣らず
の弁を振るってみようと、
いじわるなことを考えるわたしです。

投稿者 kirara4kids : 2006年06月29日 23:07

まったく参考にならない

投稿者 yuuji : 2006年07月03日 08:28

まったく参考にならないって、何の参考にならないのでしょうか?

投稿者 Ujiuji : 2006年07月03日 09:54

「人間はマシーン(技術)に守られて、人間以上の能力を発揮
する事が出来る」

人間はすでに重要な大部分の制御をマシーンに任せてしまって
います。
そして、マシーンは壊れるものです。
その時には、それらは、人間には操れるものでは無い・・・
こんな恐ろしい状況に身を委ねているのだと、改めて考えさせ
られました。

宇宙へ出て、精神構造も変わる・・・
哲学的でとても興味深い内容ですね。
自分でも考えてみようと思いました。

投稿者 lamp : 2006年07月03日 11:55

後編が,特に後半の「人間」が変化していくだろうとのところ,むちゃくちゃ面白いっ!

こんな高尚な?ことでなくて,自分が最近の若者のファッションですら理解しづらいことは,すでに「感覚」がずれてきているのだろうとは感じていた。

もっと大きく見ることで,何世紀も先の話しかもしれないけれど,あり得ることだと十分納得できる。

こういう話しを聞くと,長生きをしたいと感じる。

投稿者 juha : 2006年07月03日 19:16

夢。。
200年生きていたら
宇宙に行って
彼方クローン人間
私二世
話、、、

豹柄の体皮

面白く続く夢の中、、、、、

投稿者 佐伯百合子 : 2006年07月17日 04:24

 テレパシーシステムって本当にあるらしけど、だれか詳しく知ってるひといない?おしえてください!

投稿者 テレパシー : 2006年07月21日 00:55

テレパーシステム、ちょっと検索してみましたが、面白いですね。
ソウヤーの「ターミナル・エクスペリメント」に出てくる魂探知機(スーパー脳波計)みたい。
参考URL:
ttp://yasai.2ch.net/company/kako/986/986312842.html

投稿者 ふらふら : 2006年07月26日 22:42

中華航空機の事故の話ですが、少し間違っていると思うのでコメントさせてください。「舵が急速に機体を下に向ける方向に動き,失速,墜落してしまったわけだ」とありますが、実際には、舵が急速に機体を上に向ける方向に動いて、その結果主翼のの空気の流れに対する角度が大きくなりすぎて、この飛行機は失速しました。

投稿者 もいち : 2007年03月02日 10:25

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