科学の楽しみ方・外骨格
科学はなかなか楽しいものなんだけど、興味のない人にそれを説明するのはちょっと難しい。いちばん障害になっているのは、たぶん科学が権威的なものと思われている事にあるのだろう。権威的なものが楽しいわけないもんね。
で、そういうわけで、ぼくはこの気の抜けたような文体を選択したわけだ。こういう文体だと説得力を持たせるのにちょっと苦労したり、最初に本(オールザット・ウルトラ科学)を出したとき、小隅黎さんに内容は面白いけど文体がなあ……みたいなことをいわれちゃったりもしたんだけど、まあ、これがわたしのいきるみち。
科学というのも、エンターテインメントの一種で、スポーツやアートとかと基本的には同じものだろうと思う。つまりプロからアマチュアまでのひろがりがあって、自分でそれをプレイして楽しむ人もいれば、人のプレイを見て面白いと思う人もいる。
しかし科学はあまりに権威的なので、アマチュアでありながら、自分でプレイしてみたいと思う人の数は少ない。似たようなことをする人はいるけど、多くの場合、その目的が科学の権威を身にまといたいと言うことだけだったりするので、僕の思う、科学の楽しみ方とは少し違うみたいだ。
では科学の楽しみとはなんなのか。
まず第一は、自分にはありえない発想の源ということだ。
普通、人は、思春期を迎える頃には、世界のほぼ全てを解った気になる。これはどんな謙虚な人でもそうだろう。限られた能力しか持たない人間は、そうならなければ複雑な世界をリアルタイムで生き抜いていけないのだ。
たとえば、納豆なんか人間の食い物じゃねーとかね。
しかし、世界は変わっていくのだ。30歳とかを過ぎて嗅覚が鈍ると、意外とこれが食べられて、かなり美味しいものだと感じられるようになったりする。
でも、世界を解った気になったままだと、そういう新たな世界に巡り会えない。新たな世界に巡り会うには、解った気になっていた自分の認識を揺るがす何かが必要なのだ。
科学はまさにそういうもので、およそ人間の思弁だけからは決して発想されないようなことを見せてくれる。
それははじめ、へー、そうなんだという新鮮な驚きではじまって、そうだとするとこれもこう考えられるかもというふうに展開していく。色々思いを巡らせるうちに、世界の枠組みが少しずつ変えられていって、そこんところが面白いんだよね。
とはいえ、こんな抽象的なことを言っても、いまいちピンとはこないよね。
そこで具体的な例として、最近mixi内で話しあったことを紹介してみよう。
事の発端は、草場さんの5月20日の日記「内骨格と外骨格」だ。
草場さんのコラムはどれも面白いので、mixiが読める人は、是非読んでみることをおすすめしたい。
草場さんはこの日記の中で、
昆虫は外骨格の代表選手だが、確かに大きさに限界がある。外骨格のため、成長に際しては脱皮を余儀なくされ、複雑な気管で呼吸するので、脱皮に失敗しやすい。私は子供の頃、脱皮に失敗して途中で死んだ蝉を見て、とても衝撃を受けたのを今でもはっきり覚えている。
と書いていた。そこで、
昆虫のサイズが脱皮と関係していると言う話は、『ゾウの時間 ネズミの時間』(中公新書)にもありましたが、そうだとするとなぜ古代には、もっと大きな昆虫がいたのでしょうね。湿度が高かったのかな?
と、書き込んだ。この問題、実は昔も疑問に思ったのだけど、しばらく忘れていたんだよね。
すると草場さんは、
酸素の補給は気管からの拡散でなされます。……拡散を大きくするのは、高温・高酸素濃度だから、そのせいかも知れません。高湿度も助けになりそうです。現在でもどちらかと言うと熱帯に大型の昆虫がいるようです。
と書かれたので、
おお、そうですね。熱帯に大型の昆虫がいるということは、高温多湿が効いているのかな。だとすると、酸素濃度はあまり関係ないかも。
気管は循環系なしに、各細胞までパイプでダイレクトに酸素を供給する仕組みですよね。で、その内側は外皮と同じクチクラで内張りされていて、この部分が脱げなくて、昆虫はしばしば脱皮に失敗する。
なぜクチクラで内張りされているかというと、水分蒸発を防ぐためです。小型昆虫は体積の割に表面積が大きいので、クチクラの外骨格にしないと、あっという間に乾燥してしまう。気管もクチクラで内張りして、末端で細胞に隣接するところだけ解放する構造になっている。
でも、これをそのままに、体を大きくすると、気管の樹状構造の枝分かれが多くなって、脱皮の成功確率が低くなりそうです。大きく、かつ脱皮可能にするには、気管のクチクラの内張を、適当な枝分かれのところまでで止めないとダメそう。
でも、クチクラの内張を止めると、そこから膨大な水分が蒸発して、昆虫はあっという間に乾燥してしまいます。
高温多湿だと、酸素の拡散速度が上がると同時に、水分の蒸発も少ないので、気管のクチクラの内張が不要になりそうです。
この仮説を証明するには、まず熱帯の大型昆虫の気管は、クチクラの内張が末端より手前で無くなっているかどうかを調べることと、古代の湿度がどの程度だったかって事くらいかな。
古代の酸素濃度は色々調べられていますが、湿度についてはどうなんでしょうね。
と返事を書き込んだ。
すると、草場さんは
古生代や中生代の湿度は、植生などで分かりそうですが、どうなんでしょうね。
酸素分圧が高ければ、気管の細かさが省略できそうです。石炭紀の植物を見ていると、酸素がたくさんありそうな気がしてきますが、そんなことはないのでしょうか。
と、僕とはちょっと違った切り口で書き込み。
これに対して、yaojiさんという方が、
>古生代や中生代
シダ植物(古生代に栄えた)精子による生殖→高湿度。から裸子植物(中生代に栄えた)、被子植物(新生代に栄える)へと、次第に乾燥に強くなっているので、(地球上はともかく)植物とともに生きた動物も、次第に乾燥に適応していると言えますね。
という、これもまたひとつ視点の違う情報を提供してくれました。
で、ぼくは
植物の陸上進出に伴って酸素はどんどん増え、石炭紀の末には酸素濃度が35%になっていたようです。で、続く二畳紀末には15%に激減。そこからまた増えて今とおなじ20%前後になったとのこと。
植物の陸での繁茂は高濃度の酸素と湿度をもたらして、昆虫類の大成功につながったけど、やがて昆虫が植物を食べる速度が早くなりすぎ、植物が減りはじめ、酸素が減り湿度が減って、大型昆虫が滅んでいった……てな感じでしょうか。
と、書いたところ、こんどはゆたかさんという方が、
激減したのはあのペルム紀末の大量絶滅(95%の種が絶滅!)の時のようです。……昆虫に限らず、ここを乗り越えられたのは低酸素環境に適応できた種だけのようですね。
と書き込み。
……あー、楽しい。こんな感じで、次々世界を広げてゆけるのが、科学の楽しみ方の一つなんだよね。
最終更新時間 2006年05月31日 14:17
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ちょうど中学生頃、鹿野さんの書く文章(ログイン)に出会ってから15年が過ぎてます。そーんな影響受けて、私も科学が好きになって楽しんでいます。
1聞いたら今まで持っていた知識とつながって10に広がったりして今の仕事でも生かされてます。
いろんな視点からつながってひとつの仮説に結びついていくのって楽しいですよね。
投稿者 いっけい : 2006年07月20日 05:40










