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2006/04/30

遺伝子の謎

 5月の7日に、SF乱学講座でちょいと喋るので、その前振りを少しだけ紹介する。


 2003年4月14日、ヒトゲノム計画(1991年開始)の完了が宣言された。
 この、ヒトゲノム計画の最も重要な発見を一つだけあげろといわれたら、それは結局、「我々はまだ、決定的に重要な何かを見落としている」という事実だろう。

 2004年10月、国際ヒトゲノムコンソーシアムは、ゲノムの中の遺伝子(=蛋白質に翻訳される部分)は、全体のたった2%で、2万2千個しかないことを明らかにした。

 つまりDNA の98%が、ジャンク(クズ)だというのだ。プロジェクト以前は、遺伝子数は10万と予想されていただけに、この少なさは想像を越えていた。

 なにしろ2万2千といえば、線虫(C.elegans )の遺伝子数1万9千と大差ないのだ。

 でも、線虫の細胞はたった1000個で、DNA の塩基対数も1億(100Mb)だ。
 対してヒトは、100 兆の細胞と30億塩基対(3000Mb)のDNAを持っている。
 遺伝子に大差はないのに、こんなに大きな違いが生じるのは、一体どういうわけだろう。

 今生きている生物は、進化論的には全く同じ歳月を生き延びてきている。
 だから、もしゲノムの量が時間とともに規則的に増加するものだとすると、あらゆる生物のゲノムのサイズはほぼ同じになるはずだ。でも、実際にはそうではない。
 これはつまり、急速にDNA の量を増やした生物と、そうでない生物がいるということだ。

 様々な生物のゲノムサイズを比較すると、複雑な生物ほど、大きなゲノムを持っているわけではない。実際、両生類や硬骨魚類の中には、ほ乳類の何十倍ものゲノムサイズを持つものがいるし、昆虫のなかにもゲノムサイズがほ乳類の数倍のものがいる。

 また、C値パラドックスという現象がある。ごく近縁の種類生物なのに、DNAの量が極端に違うものがいることだ。図をみるとわかると思うけど、たとえば両生類のDNAの量は、ほ乳類の数分の1のものから数十倍のものまで存在する。

 むしろこの図を見て感じるのは、ほ乳類のDNAの量は、非常に狭い範囲にしか分布していないということだ。

 DNAの分布の広さは、ひょっとすると進化の可能性の大きさを意味するのかもしれない。つまり、この分布の大きさは、大きな環境の変化が起きたとき、新しい種を生み出す原動力になるのかもしれない。

 そう考えると、人間を含むほ乳類は、環境の変動に弱く、絶滅しやすい生き物なのかもしれない。あるいは、逆に数多くの大量絶滅を生き延びた体験を持つ生物ほど、DNAの分布の幅を広げているのかもしれない。

 2005年、理化学研究所の林崎良英さんを中心とする国際研究グループは、マウスやヒトの細胞内で作られるmRNAの大規模な分析(トランスクリプトーム分析)を行うことで、「RNA 新大陸」を発見したと発表した。

 その要点は3つある。一つは、マウスやヒトではゲノムの7割が、RNA に転写されていたことだ。つまりゲノムの7割は活動しているわけだ。

 これは国際ヒトゲノムコンソーシアムの発表とは矛盾している。しかも、国際ヒトゲノムコンソーシアムは2%なのに、こちらは70%だから、その開きは大きい。

 なぜこんなことが起きたのかというと、国際ヒトゲノムコンソーシアムの2%という値は、ゲノム配列の中から、遺伝子らしい配列を持つものを、コンピュータで探したものだからだ。つまり、遺伝子らしさの定義が不完全であれば、正しい結果は得られない。

 一方、トランスクリプトーム解析は、細胞内で現実にDNA からRNA にコピーされたものを手当たり次第にかき集める方法なので、こちらのほうがより真実に近い。

 次に、そのRNA のうち53%は、蛋白質を作っていなかった。これはRNA の役割の過半が、蛋白質を作ること以外だということを示している。こういう蛋白を作らないRNA をncRNA(ノンコーディングRNA)と呼ぶ。

 そして、三つ目に重要なこととして、RNA の72%は、DNA の二重鎖の両方からコピーされていて、そのことが発生・分化から、様々な病気まで、生命活動に大きく影響している事が確かめられた。

 二重鎖の塩基はAとG、TとC(RNA の場合はAとU)が1対1対応していて、片方のコピーをセンスとすると、もう片方はアンチセンスになる。

 この両方が同時に読まれると、RNA は二重鎖になって、蛋白質を作れない。(蛋白質を作るには一本鎖である必要がある)だから、センスとアンチセンスの割合が変化すれば、目的の蛋白質の生産量が制御されるはずだ。

 また、蛋白質を作らないncRNAでもセンス・アンチセンスペアが作られているから、この現象は蛋白質の量の制御だけでなく、もっと別の機能もありそうだ。

 これらの結果は、細胞内にある全てのRNA を調べきったものではなくて、まだ全体の数分の1程度を調べただけだ。つまり、これらの現象の割合は、実際はもっと大きい可能性が高い。


C値パラドックス.jpg

最終更新時間 2006年04月30日 23:46

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うげえ。C値パラドックスの図版がめちゃめちゃでかくなっちゃった。でも面倒だから直さない。クリックすると全体が見えます。

投稿者 鹿野 司 : 2006年05月01日 01:31

図は小さくしました。

投稿者 鹿野 司 : 2006年05月01日 02:12

 書き忘れたけど、硬骨魚類も不思議。
 何で間が抜けているんだろう。

投稿者 鹿野 司 : 2006年05月01日 09:22

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