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2006/03/01

奇遇だねえ(計算しましょ・その4)

 この世の中、全くありそうにない偶然の出来事に出会って、本当にびっくりさせられることがある。そういう経験をすると、なんか神秘的な力でも働いているんじゃないかと思ったりするよね。
 ひょっとして、これは運命の出会いなんじゃないか。それとも、奇跡か超能力かなって。

 でも、本当にそうなんだろうか。
 実は、滅多になさそうな出来事に思えるのに、よくよく考えてみると、案外そうでもなかったりするってことがある。

 ある集まり……学校のクラスメイトとか、クラブの部員とか、パーティのメンバー……とかががあったとしよう。まあ、人数は20数人以上といったところかな。

 そんな時、このグループの中に、誕生日が同じ人が混ざっている確率は、だいたいどれくらいのものだろうか。

 まあ、こりゃあ、あまり大きいわけがないよね。これまでの人生経験からして、誕生日が同じ人と出会うなんてことは、そう滅多にあることじゃなかったと思う。だから、その集まりの中に、誕生日が同じ人が二人以上いるとしたら、それはよっぽどの偶然のなせる技だろう。へえ、AさんとBさんは同じ誕生日なの!?そりゃあすごい奇遇だよねぇ。

 ……この話はわりと有名で、色々なところで紹介されているものだから、知っている人も多いかな。

 本当はこの現象、それほど珍しいことじゃないんだよね。

 と、いうよりも23人以上のグループなら、その中に同じ誕生日の人が一組は混ざっている確率の方が、全然いないケースよりも高くなる。

 ただ、こういわれても、なかなか納得はしにくいよね。そこでちょっと詳しくみてみよう。

 もちろん、誰かと出会った時に、その人と自分の誕生日が同じである確率は、一年が365日だから、365分の1=0.27パーセントにすぎない。

 ところが、そのグループの中には自分と誰か以外にも、他の人どうしで同じ誕生日になる可能性もある。そういう組合わせの数は、集まっている人の数をm人だとすると、m人の中から2人を選びだす組合わせの数

mC2 =m × (m-1)/(2×1)

 になるわけだ。
 だから例えば、グループのメンバーが全部で40人だとすると、この組合わせの数は(40×39)÷(2×1)で、780通りになる。

 これだけたくさんの組み合わせかたがあるんだから、その中に同じ誕生日の人が一組くらい混ざっていても不思議じゃないって感じがしないかな。
 え、まだ、納得できない?

 それじゃあ、実際に誕生日が同じ人がいる確率はどれくらいか、正確に計算してみることにしよう。

 あるグループの中に、誕生日が同じ日の人がいる確率を正確に求めるには、そういう人が全然いない場合の確率を求めて、それを全事象1から引くという方法で求められる。

 何故こういうやり方をするかというと、同じ誕生日の人が3人以上いるケースもあるからだ。つまり、3人が同じ場合の確率、4人が同じ場合の確率、というふうに足しあわせていくのは面倒くさいから、全然一致しない確率を求めて1から引くわけね。

 それじゃあ、集まりの中に誰一人同じ誕生日の人がいない確率は、どうやって求めたらいいのだろうか。

 話を簡単にするために、1から365までの数字が書かれたルーレットがあるとしよう。
 ここで、Aさんの誕生日にあたるルーレットのマス目を、赤く塗り潰しておく。たとえば、Aさんが1月1日生まれだったら、1のマス目を塗るわけね。そして、Bと書いたボールを放り込んでくるくるッと回してやる。

 この時、Bのボールが赤いマス目に入る確率は、当然365分の1だよね。これはつまり、AさんとBさんの誕生日が一致している確率ってことになる。 と、いうことは、この二人の誕生日が一致しない確率は364/365だ。

 で、まあBのボールが、Aさんの誕生日を表す赤いマス目以外のところに入ったとしよう。それは、Bさんの誕生日にあたるマス目で、今度はそのマス目も赤く塗り潰す。
 次に、Cと書いたボールをこのルーレットに放り込んで、このボールが赤いマス目に入らない確率を求める。

 これも簡単で、363/365だよね。これはCさんの誕生日が、AさんともBさんとも一致していない確率だ。

 以下、これを集まりの人の数だけ繰り返す。すると、その集まりで誰一人同じ誕生日の人がいない確率は、それを全部かけたものになるはずだ。
 式で書くと、

 364/365 × 363/365 × 362/365 ×  ……

 そして、この値を1から引けば、そのグループの中で誕生日が同じ人がいる確率が出るっていうわけ。

 その値は、さっきと同じ40人のグループだと、ほぼ90パーセントになる。つまり、これくらいの人数のグループなら、誕生日が同じ人が一組もいないほうが不思議なわけだ。

 また、この確率は、グループの人数が23人のところで0.504……となって、二分の一より少し大きくなる。

 つまり、23人のグループがあったら、50パーセントの確率で、その中には同じ誕生日の人がいるってわけだ。

 もう一つ、良く知られた奇遇話がある。

 初対面の人と話していて、その人の間に共通の知人がいたりすると、たいていはびっくりするよね。

 たとえば東京から北海道へ旅行に出かけて、旅先で知り合った人と、どういうわけか意気投合して話が盛り上がっちゃったとしよう。

 その人が九州出身だとわかって、「そういえば、私の高校の時のクラスメイトの各務原牛子さんってのが、今は九州へ嫁いでいったと聞いたけど、彼女は元気にしているかなあ」とかなんとかふとつぶやいたと思いねえ。
 するとその人、「名古屋出身の、旧姓各務原さんとといえば、そりゃああなた、私の妻の大の親友ですよ」
 どしぇえ。これはスゴイ。なんて奇遇なんだ。世間ってのは狭いよねえ。

 こんなことがあれば、誰だってそう思うんじゃないかな。
 でも、これって案外そうでもなかったりする。

 初対面の人が、知りあいの知りあいの知りあいである確率というのは、実は想像以上に高いんだよね。

 まず、お互いに相手と初対面の二人、甲さんと乙さんが、共通の知りあいを持っている確率は、いったいどれくらいになるか計算してみよう。

 この計算をするには、最初に、普通の人はどれくらいの数の知りあいがいるかを仮定しないといけない。

 これは、とりあえず1000人としよう。
 こういうと、たいていの人は、自分はそんなにたくさん知りあいはいないよって思うかもしれない。でも、この1000人はしょっちゅう会っている人じゃなくて、これまで生きてきた中で、ほんの少し知っている程度の人、たとえば小学校の同級生で名前はかろうじて覚えているけど喋った記憶もないような人でもいい。だとすると、この数は決して多くはないんじゃないだろうか。

 と、いうわけで、1億人の日本の人口の中に、甲さんの知りあいが1000人、乙さんの知りあいが1000人いると仮定しよう。

 この、二組の1000人のうち、一人でも重なっていれば、甲さんと乙さんは共通の友人を持つことになる。もちろん、二人重なっていても、三人重なっていても良いんだけどね。そうなる確率っていったいどれくらいだろうか。

 この問題を考えるために、ちょっとしたモデルを想定する。つまり、一億個のボールが入った大きな箱を考えるわけ。そして、その中のほとんどすべてのボール白なんだけど、1000個だけ赤い色のボールが混ざっているとする。この赤いボールは、甲さんの友達を表している。そしてもちろん、残りの9999万9千個は白玉のわけだ。

 このとき、甲さんの1000人の知人の中に、乙さんの知人がいる確率は、乙さんが1000回箱の中に手を突っ込んでボールを取り出した時、その中に赤い色のボールが1個でも混じっている時の確率と同じになるはずだ。

 この確率はどうやって求めるのかというと、乙さんが取り出す玉がすべて白かった時の確率を、全事象1から引けばいい。ようするに、乙さんが甲さんの友達を一人も知らない確率を、1から引くわけね。

 1000個の赤いボールを含んだ一億個のボールの入った箱から、乙が玉を一つ取り出した時、それが白いボールである確率は、

99,999,000
--------------- =0.99999
100,000,000

 になる。

 そして、乙さんは1000回ボールを取り出すわけだから、これを1000乗したものが、取り出したボールがすべてが白である確率になる。

 0.99999の1000乗≒ 0.990

 つまり、99パーセントの確率で、乙さんは甲さんの知りあいを一人も知らないってことになるわけだ。

 これは、乙さんが甲さんの知りあいを、一人でも知っている確率が、1パーセントしかないということだ。

 これはつまり、初対面の人が100 人いとしたら、そのうち共通の知人を持っているのは1人くらいということだ。言葉を変えると、たまたま出会った相手が、友達の友達というケースは、100回に一回しかない。

 こりゃあかなり希な話で、本当に奇遇だねってことになる。

 じゃあ、もう少し範囲を広げて、初対面の人が、自分の知りあいの知りあいの、これまた知りあいって場合はどうだろうか。
 これは、いちばん最初にあげた例と同じケースだから、それほど遠い知りあいって感じはしないよね。

 これを計算するには、さっきと同じように、箱の中に1000個の赤いボールと、9999万9000個の白いボールが入っているとする。

 これも、さっきと同じ甲さんの1000人の知りあいを表すわけね。

 そして今度の場合は、この箱の中から、乙さんの1000人の知りあいが、それぞれ1000回づつボールを取り出していくと考える。

 まず、乙さんの最初の知りあい乙壱さんが1000個のボールを取り出す。このとき、乙壱さんが取り出したボールが全て白である確率、つまり甲さんの知りあいを一人も知らない確率は、さっきの計算と同じで0.99になる。

 以下、乙弐さん、乙参さんとボールを取っていって、乙千さんまで同じことをするわけだけど、このときの確率はすべて同じ0.99になる。

 だから、乙さんの1000人の知人が1000個づつ白いボールを取る確率は、つまり乙さんの知人の1000人全てが甲さんの知人1000人のうちの一人も知らない確率は、0.99の1000乗で、およそ0.000043になる。

 これが甲さんと乙さんの知りあいの間に知りあい関係が全く存在しない確率だから、一人でも知りあい関係がある確率は、これを全事象1から引けば良い。つまり、

 1 - 0.000043 = 0.999957

 というわけで、なんと99.99パーセントの確率で、そういう知人関係があるってことになる。

 この計算は、一人当たりの知人の数を300人とかなり少なめに見積もっても、初対面の人が知りあいの知りあいの知りあいである確率は23.7パーセントもある。

 つまり、4回に一回くらいはそういう事があるわけだ、そういう意味じゃ本当に世間は狭いんだよね。

 でも、この計算結果からすると、世間というのは、もう、とてつもなく狭いもので、あう人あう人すべてが何等かの関係がなければ不思議だってことになる。でも、いくら何でもそんな事はあり得ない。

 アメリカの社会心理学者スタンリー・ミルグラム(Stanley Milgram)は、カンザス州とネブラスカ州の住人の中から無作為に抽出した300人に手紙を渡して、直接面識のないマサチューセッツ州ボストンの受取人まで届けるよう依頼するという実験を行った。
 このとき、受取人の正確な住所は教えず、郵便ではなく親しい知人経由で転送するように頼んで、何人の仲介者が必要かを調べたんだよね。

 その結果は、1967年に『The small world problem』という論文によって発表されたんだけど、それによると6人の知人の連鎖を介せば、世界中のどんな人にもたどり着けると結論付けられている。これは6次の隔たり(Six Degrees of Separation )と呼ばれる現象だ。

 6次の隔たりというのは、上でした計算よりも遠いけど、まあ基本的には同じことを意味しているといっていい。

 この研究は、社会学や数学の分野でいろいろ再検討されたんだけど、まあ、何となくビミョーって感じだったようだ。実際、この実験のデータを再検討した人がいて、実際に目当ての受取人に届いたのは29%にすぎず、その中には6人よりも多くの仲介者が存在したケースもあったことが判明している。

 ところが、1996年にコーネル大学のダンカン・ワッツによって、このスモール・ワールド問題が再び大きくクローズアップされるようになった。

 ダンカン・ワッツは、コオロギの鳴き声が伝達していくパターンを研究していて、それと映画俳優の共演者ネットワークや、送電線網、線虫の神経網など、さまざまなネットワークにおいて共通する性質があることを見いだした。そして、これがスモール・ワールドだと指摘したんだよね。

 スモールワールドの特徴は3つある。

 たとえば一人の人をノード、人と人との繋がりをリンクと呼ぶとすると、

 1.全リンク数が、全ノード数の数倍程度しかない。
   つまり、ネットワークはスカスカになっている。

 2。それなのに、任意の2つのノードは、全ノード数に比べて極端に少ない回数、リンクをたどるだけでつながれる。つまりノード間距離が短い。

 3.高度にクラスター化している。

 人がN人いるとき、全ての人が1対1で知り合うためには、N(N-1)/2通りのリンクが必要になる。でも、実際には、一人の人が全ての人と知りあいと言う事はあり得なくて、その集団の一部の人とだけ知りあいになっている。もちろん、知りあいが凄く多い人もいれば、ごく少ない人もいるけど、その「関係=リンク」の全ての数を足しあわせても、集団のメンバー数の数倍程度しかないというのが、上の1の意味だ。

 また、AさんとBさんが直接知り合いの時、ノード間距離を1とし、AさんとBさんが知りあい、BさんとCさんが知り合いで、AさんとCさんは知り合いでない時、AさんとCさんのノード間距離は2というふうに数えるとしよう。このノード間距離の数が、集団のメンバーの数に比べて極端に少ないというのが2の意味だ。
 たとえばインターネット上には、10億以上のウエッブ・ページ(ノード)があるけど、ハイパーリンクを20回ほどたどるだけで、そのほとんど全てにたどりつける事が解っている。つまり、10億のノードに対して、20しかリンクを必要としない。

 そして3は、たとえば知人ネットワークでは、自分の友人2人がいると、その友人どうしも友人であることが多いということだ。つまり、あるノードにリンクしているノード同士の大半が、リンクし合っているという性質で、これをネットワークはクラスター化しているという。

 これらの性質は、およそネットワークと考える物のほとんど全てに見いだせることがわかってきている。たとえば、2003年に流行したSARSが、これほど急速に世界中に広まった原因はスモールワールドにあるとか。

 スモールワールドは、3の性質のように、リンクを非常にたくさん持つ少数のノードと、リンクの数が少ない多数のノードで成り立っている。人間関係のネットワークでも、メチャクチャ顔の広い人と、知り合いの少ない人がいるけど、それと同じってわけだ。

 ソーシャル・ネットワーク・サービスの最大手mixiで、そのネットワーク構造を視角化してくれるmixiGraphというソフトがあるんだけど、これでネットワークの構造を眺めると、確かに対人関係のネットワークがクラスタ化している事がよくわかる。

 また、インターネットもクラスタ化している事が解っているんだけど、これはちょっとした問題にもなっている。インターネットはそもそも、中央制御されるものを作らない事で、核戦争などが起きても、通信は何らかの形で確保できる事を狙って作られた物だ。つまり、ある経路が壊されても、別の道をたどることで情報を伝達できるわけね。
 ところが、インターネットのノードも極度にクラスタ化しているので、そういう場所を狙って破壊すると、比較的簡単にネットを機能できなくすることが可能かも知れないといわれている。

 それとこれはぼくの直感だけど、神経回路網がスモールワールドだとすると、神経回路と同じ性質を持った回路網をLSI上に実現するのは、それほど難しい事ではないのかも知れないという感じがする。トランジスタ同士を、N(N-1)/2通りの配線で結ぶのはNの数が多いと実現不可能だけど、スモールワールドで十分なら、そんな配線はいらないもんね。

 なんか話がずれちゃいましたけど、上の奇遇な出会いの確率計算ではもっと頻繁にあって良いはずの出会いが稀なのは、こういうネットワーク構造にも原因があるのかも知れない。

 それともう一つ重要なのは、ようするに総ての人は、知人についてそれほど詳しくはないからと言う事があるんじゃないかと思う。

 たとえば、ある人に1000人の知人がいるとしよう。それは良いんだけど、しかしその1000人の知人について、その人がどれくらい詳しいかというと、ほとんどの人はそれほど詳しくはないと思うんだよね。とくに、その1000人の知人がそれぞれ持っている1000人の知人について、すべて熟知している人なんて絶対にいないでしょ。

 でも、これを知っていないと、初対面に出会った人どうしで、確実にお互いの関係をたどる事なんてできないんだよね。

 つまり、友達の友達は友達の友達だということは、計算の上ではほとんど確実なんだけど、それがどういう関係なのか明らかにできるのは、神様かなにか、すべての人の関係を知っているものでないと無理なんだよね。

 そういう意味では、こういう出会いは、出会い自体が奇跡なんじゃなくて、お互いの関係を探し当てる事ができたということが、奇跡ということがいえる。

 つまり、人と人との出会いは決して奇跡じゃないけど、そこに何か意味を見つけていく事こそが、奇跡だってことなんじゃないかな。

最終更新時間 2006年03月01日 05:27

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世間の狭さの確率がひしひしと伝わりました。
ところで「あなたのカレの元カノの元カレを知っていますか?」というコピーがありますが、別に知っていなくとも巡り会うってことで行けば、コピーの意味する伝染(だから予防が必要)はものすごい勢いで広がるってことになるのでしょうか。

投稿者 KAKUREMINO : 2006年05月19日 12:21

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