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2005/09/30

人はなぜ笑うのか(その1)

 ヒトはどうして、笑うんでしょうねえ。

 笑うことって、とても楽しい。いつも笑って暮らせれば、どんだけステキだろうとか思うもんね。でも、必ずしも楽しさとは関係しない笑いというのもある。

 期待が満たされた時や、優越感を感じた時には笑うことが多いし、ものすごく恐い状況から抜け出したときのように、緊張が緩んだ時に思わず出る笑いもある。それから、社交的に、対人関係を円滑にするための微笑みとか、誰かを嘲笑ったり、笑ってゴマカスなんてのもあるしね。

 お笑いということだと、ナンセンスというか、意味がありそうでないとか、甚だしく間違っているとか、そういう時も思わず笑ってしまう。このへんは、芸術ともあい通じるところがあるような気がするな。

 この他にも、いろいろな状況で、人間は笑う。つまり、笑いは一つではなくて、この言葉には、凄くたくさんの要素が盛り込まれているということだ。

 そのためか、笑いというものを、科学の視点から解明していく作業というのは、まだあまり進んでいない。何千ピースもある巨大なジグソーパズルのうちの、数十ピースぐらいがようやく置かれはじめたかなって段階だ。(まあ、もっと広く、感情というものの研究自体、まだ数が少ないのだけど)ようするに、これからの研究分野ってわけ。

 そんでまあ、笑いとは何かを解明するための切り口の一つとして、表情からのアプローチがある。

 笑いには、文化的に違った面がたくさんあるだろうけど、表情としての笑いには、文化の差はあまりないようだ。どこの人でも、笑い顔をみれば、それが笑いだということは、ちゃんとわかる。つまり、表情とての笑いは、本能のような、人間の基本プログラムの一つといっていいだろう。

 それを示す別の証拠として、たとえば笑いてんかんというのがある。これは、本人は決して面白くもおかしくもないのに、てんかんの発作の出る直前に、笑い転げてしまうってものだ。この時の笑いは、傍目には本当におかしいことがあって笑っているのと、全く区別がつかないという。

 てんかんという病気は、脳神経の異常放電で、精神の病ではない。つまり、この笑いてんかんのケースは、脳内にある身体的な笑いを引き起こす回路が、異常放電によって活性化されてしまうのだろう。

 つまり、身体的な笑いを引き起こす回路は、人類に共通のものとして、脳の中にあるのだろう。

 ただ、脳の中の回路というのは、単なる肉体的な道具に過ぎないわけで、それがどういう状況下で、どう使われるかというのは、それとは全く別の問題になる。

 たとえば、赤ちゃんが笑いはじめる時、非常に早い段階から、笑いはいくつかの目的をもって使用されている。

 赤ちゃんは、生後4日とか7日で微笑っぽく、口を歪めるような表情をするようになる。定説では、この時点ではまだ、赤ちゃんは反射的な表情を、表しているにすぎず、これを笑いと見るのは、親の贔屓目ということになっている。

 もっとも、オッパイを飲んだ後とか、眠る直前にこういう表情をするので、ひょっとすると、これも満足感と関係しているのかもしれない。まあ、こればっかは、赤ちゃんに聴いて確認をとるわけにもいかないから、何ともいえないんだけどね。
 また、生後36時間くらいの赤ちゃんでも、目の前で、根気良くゆっくりと同じ表情を繰り返してやると、それを真似しはじめるので、反射的な笑みといっても、それほど機械的なものではないだろう。

 人間の赤ちゃんは、実は霊長類の中でも、もっとも成熟した、コミュニケーション能力を備えて生まれてくる。

 たとえば2週齢くらいの赤ちゃんでも、オッパイを吸う時、連続してずっと吸いつづけることは決してない。あるていど吸うと、吸うのをやめてしまうんだよね。すると、おかあさんは、赤ちゃんをよしよしって感じで、少しゆすぶる。これは、ほとんどの場合、おかあさんも意識せずにやっている動作なんだけど、そうすると赤ちゃんは、再びオッパイを吸いはじめるわけ。で、こういう交互のコミュニケーションのリズムが、ほぼ一定の間隔で繰り返されていく。

 生き物にとって、栄養の吸収は生存のための重要な課題だから、本来なら休まずオッパイを吸った方がいいに決まっている。

 実際、人間以外の動物の子は、みんな連続的に乳を吸いつづけるし、多くの点で人間と共通する類人猿たちでさえ、こういうことはしないらしい。
 しかし、人間の赤ちゃんは、栄養補給の効率よりも、おかあさんとのコミュニケーションの方を、重視しているわけだ。

 これは、人間にとって、他者とコミュニケーションをすることが、栄養を補給することに並ぶか、それ以上に重要な、本能的行動だということを意味している。そして、笑いはこのための重要な道具のひとつなのだ。

 赤ちゃんは、生後3週半くらいから、人の顔を見つめるようになり、4週目に入るとそれが頻繁になって、5週目ころからには視覚刺激に基づいて微笑むようになる。つまり、おかあさんの笑い顔をみると、笑い顔で応えるようになるわけだ。

 つまり、笑いはまず自分の満足を表現する信号として使われるみたいなんだけど、それとほとんど同時にコミュニケーションの道具としても、使われる。

 このような笑いと、お笑いの笑いとは、しかし少し様子が違っている。
 お笑いの笑いは、楽しいってことはもちろんあるけど、お腹の皮がよじれちゃうとかいう感じで、もっとこう爆発的なところがある。満足やコミニュケーションの笑いは、くつろぐ感じがあるけど、お笑いの笑いは興奮に近い。
 だとすると、お笑いの笑いとは、いったいどんな目的で、脳の笑い回路が使用されているのだろうか。

最終更新時間 2005年09月30日 03:01

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