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2005/08/29

心を読む機械(その2)

 さて、神谷さんがやったマインド・リーディングの研究は、このどちらとも違って、脳情報の読みとりにfMRI(機能的磁気共鳴画像)を使っている。

 脳は賦活領域で血流量が20~40%増加するんだけど、fMRIはその血流の変化を画像化する装置だ。

 ただ、これの画素は3ミリ×3ミリ×3ミリで、かなり大きい。

 一方神経細胞は、長さは長いけど太さは1ミクロン程度しかない。

 つまり1画素の中に何十万個もの神経細胞が含まれてしまうわけだ。

 また、脳神経の機能単位とされるコラム構造(神経の集合体)も、0.1ミリ程度の大きさなので、これまでfMRIでは、ブレイン・マシン・インターフェースに使えるような、自然な脳情報が取れるとは思われていなかった。

 ところが、神谷さんはその粗すぎて意味がないはずの脳画像を、パターン認識させてみたんだよね。

 使用したのは、サポート・ベクター・マシンという、郵便番号の自動読みとりとかの手書き文字の認識などにも使われる統計アルゴリズムで、その結果、情報の取り出しに成功したのだ。

 具体的には、4人の被験者に8種類の傾きの縞模様を見せて、そのときの視覚野の脳画像を記録してパターン解析を行った。

 すると、視覚1次野と2次野の画素を用いたとき、平均20度程度の誤差という高い精度で、被験者が見ている図形の傾きが予測できたのだ。

 脳の視覚野には、特定の傾きの縞模様にだけ反応するコラム構造があって、それも傾きごとに順番に並んでいることが、ネコなどの動物を使った実験で解っている。

 当然、人間でも同じ構造があると考えられてきたけど、脳を開けて針を刺して実験するワケにもいかないので、実際に確かめられたことはなかった。

 だけど神谷さんの実験で、初めて、人間の脳の視覚野にも傾きに反応するコラム構造があることが確認できたんだよね。

 面白いのは、被験者4人の脳情報のパターンは全員違っていて、それぞれの脳で測定しなければならないことだ。

 つまり、縞模様に反応するコラム構造という、視覚の非常に基本的な領域でさえ、人それぞれで違っているということだ。要するに、指紋の形成と同じようなことが、脳のコラム構造ができる時にも、起きているのだろう。

 神谷さんは、それからもう一つ、斜めの縞を二つ重ねて表示して、被験者がどちらに注意を向けているかを、脳画像から読みとるという実験もやっている。

 この実験を始める前に、あらかじめ45度と135度の縞を見た時の、脳画像パターンを得ておく。その上で、2つの斜めの縞を交互に表示させ、被験者にその片方だけに注意を向けてもらう。

 すると、たとえば45度の傾きの縞に注意を向けている時は、45度の縞模様を見ているときと同じような脳活動が生じるのだ。その結果、8割くらいの的中率で、どちらに注意を向けているかを言い当てる事ができたという。

 二つの縞のどちらに注意を向けているかということは、その本人にしか知り得ない主観的な情報だ。

 つまり、これはまさに、世界ではじめてマインド・リーディング(読心術)に成功した実験ってわけだ。

 現在、神谷さんはこの手法をさらに他の脳情報にも応用を進めていて、ある程度の体の動きや、発声なども脳画像から当てられるようになりつつある。

 つまり、思考でロボットアームを動かしたり、思考タイプライタのようなものも可能になるかもしれない。

 ただし、これで究極のブレイン・マシン・インターフェースがすぐできるかというと、それはそんなに甘くはない。現状では乗り越え難い制約が、いくつかあるからだ。

 まず第一は、fMRIは装置が高価で大型なことだ。そのため、いつでもどこでも誰にでも使えるというわけにはいかない。

 また、血流から情報を得ているため、反応時間があまり速くない。上の実験でもリアルタイムで反応しているわけではなくて、一つの結果を得るのに20秒くらい、同じ縞を見せるようにしないといけないという。

 もっとも、神谷さんの手法は、装置がfMRIに限定されるわけではない。

 この手法は、比較的粗い脳情報からでも、従来考えられていた以上に詳細な認知状態の推定が可能だということだ。

 だから、今後よりコンパクトで速い情報収得が可能な脳計測装置が登場すれば、それに同じ手法が応用できるだろう。たとえばコンパクトさということなら、光トポグラフィなんかが使えるかも知れない。

 神谷さんの研究は、BMIを「使える技術」にするための現実的なステップの一つとして、とても面白いものだと思うなあ。

最終更新時間 2005年08月29日 13:33

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