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2005/08/29

心を読む機械(その1)

 ぼくは以前から、テレパシー・マシンは作れないと主張してきた。

 つまり、脳の中にある情報を、なんらかの装置で読み取り、それを他人の脳で再生したり、心をマシンにダウンロードすることは、原理的に不可能と考えてきた。

 その理由は、脳がとても個性的なものだからだ。

 脳の基本構造は、もちろん遺伝子によって規定されている。しかしその細部、記憶や認知に関わる部分の大半が、後天的に人それぞれ別個に形成される。これには、指紋と同じような発生レベルでの違いもあるし、成長して記憶が形成される時に、ある情報と神経回路網がどう対応付けられるかの違いもある。

 たとえば、1+1=2という情報をコーディングしている神経回路網のパターンは、ぼくとあなたでは全く違っていて互換性がない。

 そのため、ある人の脳情報(=神経回路網のパターン)を物理的に読みとって、別の人の脳で再生させても、基本的に意味をなさない。また、その情報を何らかの装置に記録した場合、記録されている生データを第三者が見ても、どんな内容が記録されているか知る事はできない。

 さらに、脳の神経回路網のパターンは、経験と学習や、老化によってもどんどん変化していくだろうから、記録された情報を本人の脳で再生した場合でも、非常に古い記憶の場合は、正しく再生されない可能性もある。

 ところが最近、脳画像から心を読むというマインド・リーディングに成功したというニュースがあった。

 これはなんだか面白そうだって事で、研究を行ったATR脳情報研究所の神谷之康さんに取材してきました。

 さて、その内容を紹介する前に、予備知識としてちょっとBMIのことに触れておこう。BMIといっても、ボディ・マス・インデックスじゃないよ。(^_^)

 脳から情報を取り出して、何らかの装置とつなげる研究の事を、BMI、つまりブレイン・マシン・インターフェースという。

 これは、90年代の終わり頃から、非常にリアリティを持ち始めた研究分野なんだよね。

 人間は、自分の意志を伝える時に、結局、筋肉の運動に頼るしかない。
 声で喋るにせよ、しぐさで伝えるにせよ、文字を書くにせよ、どれも筋肉の運動を必要とする。

 ところが、脊椎の損傷やALS(筋萎縮性側索硬化症:あのホーキングが罹っているやつね)などの病気にかかると、それらの意志を伝えるための筋肉運動が大きく制限されてしまう。そこで、そんな人の意志を直接脳から読みとって、外に伝えてやろうというのがブレイン・マシン・インターフェース研究の主な目的だ。

 その究極の形として、『スパイダーマン2』の敵キャラ、脊椎に直結した4本のロボットアームを自在に操る、ドック・オクがある。


 実際の実験としては、たとえばアカゲザルを使ったものが行われてきた。
 まず、アカゲザルの頭をパカッと開けて、その脳の運動皮質に数十本の剣山みたいな電極を刺してやる。

 で、そのアカゲザルが、手でジョイスティックを動かして、カーソルをマルの中に入れたらジュースが一滴貰えるという学習をさせる。

 このとき、手を動かしている状態の脳活動を記録して、手の動きと脳活動の関係をマッピングする。

 つまり、手をこう動かしている時は、この神経とこの神経がこの割合で活動しているとかを、コンピュータに記録したワケね。

 その結果、脳活動のデータを見るだけで、カーソルをどう動かそうとしているか推定できるようになる。つまりアカゲザルの心を、限定的にだけど、読む事ができるようになったわけだ。

 そして、ある段階からジョイスティックが効かないようにしてやると、やがてアカゲザルは念じるだけでカーソルをコントロールして、ジュースを貰うようになる……。

 同様のシステムは、すでに脊椎損傷の人でも実験がはじまっている。

 これはアメリカのサイバー・キネティックス社というところがやっているブレイン・ゲートというシステムの実験で、被験者には2ミリ四方に100 個の電極を並べたものを右耳の後ろの運動皮質に埋め込んでいる。

 これで50~150 個の神経細胞の信号を取って、人工腕を動かしたり、コンピュータ画面のカーソルをコントロールする。カーソル操作に関しては、ビデオのデモを見る限り、健常者が手でマウスを操作するのと同じくらい自由にできているようだ。

 ちなみに、体がすでに動かせなくなっている脊椎損傷患者で、どうやって手の動きと脳の活動のマッピングができるのかというと、手を動かしているつもりになってもらって、そのときの脳信号をコンピュータに記録するという方法をとっている。

 つまり、厳密には、かつて手を動かしていた時の脳情報と全く同じものをコンピュータでマッピングしたわけではなくて、患者自身がカーソルを巧くコントロールする脳信号の出し方を新たに学習したといったほうが良いかもしれない。

 この方法のメリットは、体を動かしていた時に近い自然な脳信号を使って、機械をコントロールできるので、患者自身の学習時間が後に述べる方法より短くてすむ事と、神経一本一本に針を刺せるから、コントロールの精度が比較的高いということだ。

 でも、その反面、頭を開けて、脳に直接電極を突き刺すっていうのは、かなり覚悟が必要なことだし、感染症のリスクも少なくない。また、何年にも渡る長期間の使用に耐えるかどうかも、良くわかっていない。

 そこで、もう一つのブレイン・マシン・インターフェースのやり方として、簡単に頭に被って脳の信号を取る装置を使う方法がある。

 具体的には、多チャンネルで脳波を計測する装置を使って、パックマンみたいなゲームをコントロールするといった研究が古くからあった。

 ただし、これには脳に直接電極を埋め込む方式より、融通の利かない点が多い。

 と、いうのも、脳波では、脳活動のかなり大雑把な情報しか解らないからだ。

 つまり、手をどちらに動かしているというような情報は、基本的に得ることはできない。それではどうやって、ジョイスティックなどをコントロールするのかというと、被験者が自分の脳波の出し方を練習するんだよね。

 たとえば右手を動かす事をイメージすると左脳が、左手を動かす事をイメージすると右脳が、そして暗算をすると脳の前のほうが活発に活動する。

 そこでその脳波を、ジョイスティックの動きと関連づければ、思うだけでゲームをコントロールできるわけだ。

 でも、それはもちろん、脳の運動を司る部分の、自然な信号を取っているわけじゃない。
 そのため、あまりキメ細かい動きはできないし、動きもゆっくりしか対応できない。

 それに何千回もトレーニングしないと使えるようにならない上、集中力も必要で、途中でちょっとお腹が空いたとか思っただけでも、コントロールが乱れてしまう。

 一方、電極を刺す方法は、運動野の限られた場所からだけ情報をとっているから、雑念があってもコントロールが乱れる事はないんだよね。

最終更新時間 2005年08月29日 10:50

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