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2007/04/15

フランス料理「シェ・イノ」(京橋)

フランス料理の老舗「シェ・イノ」で井上旭さんのスピリットに感激しました。

「シェ・イノ」は明治製菓本社の1階に構えた風格のある堂々としたレストランです。初春のランチで伺いましたが、大きな窓からの陽光と調和したシックな内装が心地よく、2004年12月のリニューアルオープンは大成功だったようです。

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そして、席について食事とワインをオーダーするまでの間に、ウェイターとソムリエのキビキビした顧客本位の動きにすっかり感動してしまいました。なかなか他店では体験できないことです。(ちなみにシェフ・ソムリエはボクが何回か通っていたワイン学校の人気講師です)

東京にはフランスでミシュラン三ツ星を取ったレストランの支店が沢山あり、その幾つかにはフランスと東京の両方の店舗に行った経験がありますが、フランス本店と東京支店の提供価値(バリュー・プロポジション)の違いを料理、外観・内装、接客に分けて比較すると、圧倒的に差が出るのが接客だと感じていました。料理、外観・内装がハード的であり比較的経営者の自由に作り込めるのに対し、接客はソフト的でお客様に合わせた対応が求められるため文化の影響が大きく、フランス人によるマネジメントが最も難しい分野だからだと思います。

日本支店で起こりがちな現象は、十分なスキルや相応しい接客スタイルを持った人材の採用に失敗していることで、タキシードを着た大衆食堂のオヤジさん(失礼)や、本場スタイルの外面だけをマネをしたプライドの高い若者が、給仕をしていたりします。

(余談ですが、以前あるお店で食後の飲み物を「コーヒー、エクスプレス」と注文したところ「当店はフランチレストランございます。エクスプレスなどというものは置いておりません」と見下した視線で対応されたことがあります。フランスではエスプレッソ(イタリア語)のことを、単にコーヒー、あるいはエクスプレスと言うので間違えて言ってしまったボクも悪いのですが、見下すことはないのになぁ)。

ではなぜ「シェ・イノ」では素晴らしい接客が提供されているのでしょうか。それは創業者の井上旭さんのスピリットにあると思いました。この思いは、食後にウェイターさんを捕まえて質問攻めで職務妨害をしていたボクに「この本を読んで静かにしてなさい」とばかりに貸して下さった井上さんの著書(「INOUE THE WORKS」1991)に目を通したとき、確信に変わりました。ここにいくつかのキーフレーズを抜粋して紹介します。

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・結果がすべて:そのためにはプロセスで「これでよいか」と常に自問自答すること。ただしプロセスが正しくても結果が悪ければ意味がないし、プロセスにこだわりすぎると新しい発想は出てこない

・創造と伝統:創造のない伝統に進歩はない。伝統を持たない創造には、持続力がない

・頭の体操:柔らかい頭で、多面的アプローチを試みながら、仕事をする。例:「もっと美味しくする方法はないか?」という質問を素材、調理法など多面的に考え続ける

・頭を働かせながら:常に逆算して手順を考えながら、仕事をする

・鉄則:大胆かつ繊細に。決して、繊細かつ大胆にではない

・集中力について:時間を畳み込むことのできるのがよい職人である

・ロゼを求めて:講習会で「オーブンは何度で何分」と回答することがある。素材のばらつきや外界の温度などオーブンを取り巻く環境は一定ではないのでそれは一つの目安でしかなく、適切な回答を得るには感覚を鋭くするしかない

・精神の強さ:集中力の持続は精神力である

・一生探求者:毎日の仕事の中でマンネリズムに陥らないように、常に味覚、感覚を磨いていなければならない。そのためには、料理に関するありとあらゆるものを読み、聞き、試みなければならない。

・ソースの条件:ソースには、味とコクとまろやかさがなければならない

・からだで覚える:しっかりとした味のイメージがからだ全体に染み込むまで、ひとつの料理を何回、何十回と作り込まなければだめだ

・ギリギリまで塩をする勇気:ホワイトアスパラをゆでるとき、少し強めの塩加減でアスパラの持つ甘さを引き出すことができる。あと少しの塩加減をする勇気がプロの仕事である

・手は頭:自分の考えていることが手ですぐ表現として出てこなくてはならない。それが技術というものだ。つまり、イメージと料理を結びつけるものが技術であり、イメージを作るものは経験、感覚、知識である

・神経を行き届かせること:料理において、不注意というものは、取り返しのつかぬものである

・味の記憶:私のからだは味の記憶で一杯に詰まっている。料理を作るとき、その記憶は私の中で再合成され、無意識のうちに形になってできた答えに導かれて、一つの味になる

このようなスピリットから生まれた料理でオススメなのが、「マリア・カラス」。トロワグロやマキシムで修行した井上さんですが、マキシムでは世紀のプリマ・ドンナ、マリア・カラスがよく来店して好物の仔羊を食べていたそうです(彼女はギリシャ系なので)。そして帰国後に日本で仔羊を広めるべく、マリア・カラスに捧げる料理をイメージして創作したのがこのメニュー。トリュフとフォアグラとデュクセルが一緒にパイ包みされており、ソースはシェフ得意のペリグーです。

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さて、井上さんのスピリットがなぜ接客などソフトな部分の成功を導いているかという冒頭の話に戻ります。接客はモノではなくサービスで、生産-提供(=消費)が同時に行われる性質を持っています。高級フレンチともなると、それぞれのお客様が心地よいと思う接客行動が求められますが、それはマクドナルドのようにあらかじめマニュアルにして決めておくことが出来ない性質のものであり、給仕がその場で意思決定して行動するしかありません。そこで大切になるのが、意思決定の指針として、お店のスピリットがしっかりしているか、それを給仕が共有して持っているか、ということになます。「シェ・イノ」では、この点に成功したことが接客のレベルの高さに繋がったといえそうです(クレド重視のスターバックスも同じですね。ちなみにハードである料理については今でも井上さんが厨房で毎日目を光らせて厳しいチェックを入れているそうです)。

ボクの専門分野であるブランディングの効用の一つに「ミッションやビジョンで会社を元気にしていく」というのがありますが、一脈通じるものを感じました。

*基本情報**
店名: シェ・イノ
住所: 東京都中央区京橋2-4-16明治製菓本社ビル1F
電話: 03-3274-2020

**TPO**
■友人と食べ歩き
■家族と
□短時間で手軽に
■デートで
□合コンで

**予算***
□~3,000円
□3,000円~7,000円
■7,000円~

最終更新時間 2007年04月15日 18:32

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